アトリエ訪問

新連載 第6回



アトリエ訪問 新連載 第7回
彫刻家 柳川貴司さん
―自然と人との共生―
訪問者:中野 中


 行田市(埼玉県)は関東平野の西端に近く、市街地をはずれると広々と田畑が広がっている。また歴史文化遺産も多く、金錯銘鉄剣(国宝)等が出土した稲荷山古墳など国内有数の古墳群(5世紀末〜7世紀)や、戦国時代に石田三成の水攻めに耐え、関東七名城に数えられた忍城の遺構、あるいは近代に入って発展した足袋産業をしのばせる白壁の土蔵が散見される。
 そうした歴史ある行田で10数代になる柳川さんのお宅は周囲が畑地に囲まれてゆったりとした構えだ。庭には五葉や黒・赤松が7、8本、槐、月桂樹に紅葉、いまを盛りといくつものつつじが彩りを添えている。
 庭の一隅には材木が積まれ、隣接するプレハブの大きなアトリエは、初期からの数々の作品であふれかえっている。



広いアトリエには初期からの多くの作品が置かれている。

 

 彫刻家を目指す人は誰もがそうであるように、粘土捏ねに始まり、まず塑像をつくり、そして石や鉄など様々な素材を試みながら、自分の専科を決めていくのだろう。
 柳川さんは30歳を過ぎたころ“木”を相棒にすることに決めた。そして大きな音を立てても気がねなく制作できるように生家に戻ってきた。
 なぜ、木にしたのか。今更ながら思い返せば、木の優しさをはじめ、自然をより豊かに感じた、言い詰めれば“相性”が良かったということだろう。理屈よりも感覚、感性が勝ったということだ。




左 連続した形 欅
(H180×W450×D150cm)2020年 
右 積み重ねられた形 檜
(H200×W120×D100cm)2020年

 

 掲出作は昨年の個展発表(銀座6・ギャラリー志門)作品である。
 『連続した形』は欅、『積み重ねられた』は檜である。
 制作するときにまず考慮することは、“丸太の持つ大きく豊かな自然の魅力を、最大限に生かす”ことであり、“造ることで木の魅力が失われない”ことである。
 木材の放つ香りの心地良さ、また塊や樹皮等の存在感に圧倒され、さらに木目の美しさや木肌の柔らかさ・優しさ等、醸しだされる温ぬくもる暖かさに耽溺することのないように木の魅力を最大限に生かそうとする。




同じ2点を角度を変えてアップで

 

 両作品とも、丸太が持つ表皮の表情や量塊感、あるいは節や空虚をも活かし、その自然を想起させる部位と、丸太の塊から柱・板・円と段階的に切り出したエッジの立ったパーツとの構成により、情緒性と物質性を調和させている。
 多くのパーツをいくつも連続させたり、より大きくしたいという欲望を制御し、造形性から逸脱することなく、情緒性と物質性の調和を企り、樹木という自然と、制作という人為的行為を作品の中でバランスさせ、秩序感をうみ出していく。
 その根底に、人間の及ばない長い樹齢がつくり出す自然の偉大さ・雄大さへの敬意があり、作品を通して自然と人との共生を謳っているのだ。

*1957年埼玉県生。東海大学教養学部芸術学科卒業。フェスティバル、コンクール、企画展に意欲的に出品。99年以降、個展11回開催。