アトリエ訪問

新連載 第8回



アトリエ訪問 新連載 第8回
一線会理事長 橋本 光さん
― 人間社会への眼差し ―
訪問者:中野 中


 つくばエクスプレスで都心から1時間弱、つくば万博記念公園駅で下車。そこそこ街らしい駅前を離れるとすぐ、田舎らしい鄙ひなびた田園が開く。
 アトリエの前庭にはぶどう、かりん、りんご、梅、柿、ブルーベリーなど(なぜか全部実をつける木ばかり)が、裏庭には工事場(額縁をてづくりする)や打ちっ放しのゴルフネットが張られている。300坪の広大な敷地に建つアトリエはほぼ手作りで、シンプルな作りの内部は高い天井に半2階がある。60才を迎えて帰郷することに決めたのだ。



作家近影
天井の高い広々としたアトリエにダルマストーブがあった

 

 橋本さんは高卒後、単身上京。わずか3か月後。彼の生き方に大影響を与える出会いが起こった。画材店で運命的なそれは、40才前くらいの画家長谷川漸。大柄で長髪、柔和な表情に滲み出る品の良さに、19才の田舎者には雲の上の人とうつり、17年間師事することに。
 劇的な出会いは、また別れもそうで、師の突然の訃報を聞くことになる。
 その前年、すでに一線展の委員になっていたが、制作に拍車がかかったのはこのときからだった。
 間もなく「望郷」シリーズをはじめ、'89年から「NEXT」、「E・L・E・G・Y」、「祭り」「化身」などのシリーズが連続するのだが、ときに他のシリーズが入りこんだり、併走したりする。
 郷土へ思いを馳せながら、バブル時代の都会の喧騒を煽ぐマネー・ゲームに狂奔する人々を描く社会へのシニカルな眼差し、かと思えば人間の原郷へ視線を向けた「祭り」、また心の奥底にある仏心を託した仏像が大きな画面を埋め尽くした「化身」、やがてバブルの傷跡に目を向け、その心象を重層させたような
「風化」など。
 自分の思念を表現するのに、必要とあれば抽象性を強めたりデフォルメは言うまでもなく、色彩も筆致も熱っぽく、密度高く執拗で、そうでありながら少しも騒がしいことはなく、妙に冷めて闇の底に見る景のように感じたりもするのだ。要は、不条理に満ち満ちている社会に、その否をつきつけるにしろ、早く覚醒してあるべき道を歩こうと呼びかけるには、見えている眼前の対象を描いても説明するだけだ。その奥に見えてくるコトを描くことに、橋本はひたすらに走り続けてきた。



NEXT - E  F130 1989 年

 

  ところが近年の橋本さんは、角も針も収めたかのような「風跡」を連作している。石切り場の景を作業人や重機を配している。色調も抑制し、動きも穏やかだ。がビルや橋など生活の近代化を支えている、その反面で自然破壊に邁進してきた姿なのだ。便利で快適な生活への疑義を静かに呈しているように思える。
 人間社会へのシニカルな眼差しはより深まる。




風跡―石切山脈―68  195×179cm 2017年

 

 *1943年茨城県筑波郡(現、つくば市)に生まれる。'65年一線展に初出品、初入選。'78年委員に推挙される。安井賞展(5回)、昭和会展(招待出品3回)、東京セントラル美術館油絵大賞展(入選2回、内1回佳作賞)等で活躍。現在、一線美術会理事長。