折々の眼(11)  済生会茨木病院の室田豊四郎作品  ワシオ・トシヒコ(美術評論家)


              

 やはり、東京・大阪間はまだ遠い。  

 新幹線が矢のように疾走していない時代に育った人間が聴いたら、きっと目を剥いて怒るだろう。実は私も、その一人なのである。したがって超スピードに、もうすっかり麻痺しきり、このような不満を吐く自分に対してもまた呆れはてている、というわけだ。  

 大阪府立現代美術センターで開いた旧知の画家の個展を観ながら、しばらく歓談した。そのあと急ぎ、茨木まで足をのばすつもりでいた。しかしいくら時刻表と睨めっこしたところで、東京郊外の自宅へ日帰りするには、とても時間が足りない。残念ながら、予定を見送らざるを得なかった。  

 なぜ、済生会茨木病院へ立ち寄ろうとしたのか。別に、持病の慢性副鼻腔炎の診察を受けるためではない。一昨年に他界した新制作協会の会員で、東京展の主要メンバーでもあった油彩 画家室田豊四郎さんの多くの作品が、リニューアルされたばかりの病院に寄贈して常設されている旨、彼の遺作責任者の山田芙美子さんから電話で知らされたからである。大阪の病院へ寄贈することになったわけは、室田さんが大阪出身で、血縁にお医者さんがいたためらしい。室田さんも、さぞや天国で胸を撫で下ろしていることだろう。  
 

 室田豊四郎といえば、一抹の哀愁を秘めた詩情とほのぼのとしたユーモアの“馬の画家”としてよく知られる。駿馬の雄姿を写 実的に描く画家なら珍しくない。室田さんは、ちょっと違う。どちらかとい

うと擬人化され、デフォルメされた馬だ。人馬一体観を思わせる深い気配が、画面 空間いっぱいに立ち籠めている。  常設されるのが、F四号の「馬と少女」から F100号の「囲いの中の馬」まで、全部で37点。一階ロビーから七階まで、病院全体のポイント、ポイントごとに展示されてあるらしい。院長室や部長室などが連なる3階の展示以外なら、自由に出入りし、鑑賞できるそうだ。病院は、新大阪駅でJR京都線の快速に乗り換え、次の茨木駅で下車してすぐ、という。  

 各地の病院の内外に美術品を展示する試みがふえている。とかく緊張を強いられがちなスペースに美術品を展示し、出入りする人々のこころを少しでもリラックスさせようという意図である。私自身、埼玉 県の北本市に所在する北里病院のメディカルセンターに選抜展示するための「人間讃歌大賞展」の審査員を務めた。また、秩父生協病院が主催したホスピタルヒーリング・アートのシンポジウムのパネラーとして参加したこともある。  

 今回のようなケースは、決して珍しくない。しかし一人の画家だけの作品をこのようにまとまった数量 で常設されるのは、やはり全国でも稀れなのではなかろうか。次回の大阪行きが楽しみだ。日帰りなら今度こそ、室田豊四郎作品の鑑賞だけに時間を当てたい。

 

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