続・足裏庵日記(18)   ― ストゥール ―     中野 中 (美術評論家)


 その画廊にはカウンターがある。丈高いストゥールに腰掛けてカウンター越しに画廊主と打合せをしたり、来廊者とサービスのコーヒーを啜りながら雑談を交わしたりする。サロン的な和やかな雰囲気がこの画廊の持ち味とも言える。  

  いま、その画廊で私の企画展『新世紀の顔・貌・KAO―30人の自画像―2005』展を開催している。2001年にスタートとして今年で5年目。これで最終回として一区切りにする心算である。毎回メンバーを一新して描き下ろしの自画像・自刻像をほぼ30人ごとに発表してきた。毎年スタートはその画廊と決めてきた。  
  今年は最終回ということや好天にも恵まれてずいぶん多勢の来廊者がある。それだけではなく、おそらくは〈自画像〉というテーマの魅力・面 白さが年毎に定着してきた結果でもあるだろう。この展覧会は約半年かけて都合8か所(新宿、金沢、高知、京都、平塚、北海道、銀座、名古屋)を巡回する。すべてが終えたところで、計150点の自画像をまとめ、自分の新世紀の自画像論をまとめて一冊本にしたいと考えている。  

  それはそれとして、新宿の会期中、出来るだけ会場に詰めるよう心がけている(他の会場でも初日には在廊するよう心がけている)。  
 
  今回は初日から1週間は毎日、時間のズレはあっても画廊へ顔を出し、数時間はそのストゥールの世話になる。そして出品者をはじめ顔見知りや未知の初対面 の人々といろいろな話をする。そして閉廊後は決まって居酒屋で一杯やりながら時を過ごす。

 毎日というのはけっこう過酷で、丈高く、しかも背凭れのないストゥールというのは背筋に負担がかかるのか、一週間経つ頃には背中にかなりの張りを覚えるようになり、繰り返し飲むコーヒーと毎晩のアルコールで胃が重く感じるようになってきた。  

  それでも時間が割けるを幸い、毎日新宿通いをしている。そして作家からは自画像を描くむずかしさと楽しみを聞く、来廊者からは自画像の面 白さを聞く。この人たちの話に時々意表を衝かれることがある。あるいは企画者だと知って作品について質問してくる人もいる。  
  この企画は、ある意味で人選がデタラメで私の恣意次第、出品者の年令も立場も肩書きも一際関わりない。具象系であろうと抽象系であろうと構わない。日本画洋画版画水墨だろうとバリアフリー、彫刻家にも参加を願っている。  

  ちなみに例えば年令で言えば30代半ばから80才までの幅がある。創作に限らずすべからくそうであろうが、年令による表現のあり方の相違という興趣もある。真向上段から対峙する正攻法もあれば、少し斜に構えたりウィットを効かせたりヒネリが入ったり。つまり画家の才質やコンセプトがかなりハッキリ、技術以上にそうした本質が見えてきそうである。  

  あと1週間会期を残して、そのストゥール(いつも席が決まっている)に腰掛けカウンターでこれを書いている。すべてを知るのはストゥールなのだろう。

 

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