折々の眼(18)  それはないよ、横尾さん  ワシオ・トシヒコ(美術評論家)



              

 薬用だろうが、医薬品だろうが、養毛剤とか育毛剤と名のつくシロモノには、目がない。これまでこれらの品が登場するたびに、どれだけ投資してきたことか。しかし私の頭はご覧のとおり、ほとんど効いたためしがない。還暦もすぎたのだからもうあきらめればよいのだが、まったくこりない。新製品発売の報をキャッチするたびに、急いで薬局へ駆け込む。  
 
  発毛促進剤と銘打ちこの春、薬用アデノゲンが資生堂から発売されたことをテレビコマーシャルや新聞広告で知った。世界で初めて、生体内に存在するアデノシンが発毛を促進する効果 があるのを発見したのだそうだ。  
 
  ところがなぜか、私はまだ買っていない。テレビコマーシャルや新聞広告のキャッチ・コピーが、今のところ、まったく購買意欲をそそらないからである。「世界初、アデノシンは結果 を出す」というフレーズを大きく打ち出し、老若男性の顔写真を碁盤目状に全面 に無数に掲げている。このPR戦法、どことなくウサンくさい。効能結果がまだ出てもいないのにあたかも出たように、喜びいっぱいの顔写 真を並べているからだ。   

  これらのテレビコマーシャルが放映されたり、新聞広告が載ってまもなく、或る新聞記事を読んであっけにとられた。ジョークじゃないか、と思った。なんとあの横尾忠則が、放送や紙面 を通して流されたそのキャンペーンデザイ

ンの発想が、全国の滝の絵葉書を彼の個展の際に、一つのブース空間全面 に張り巡らせたインスタレーションデザインに酷似していると、資生堂にクレームをつけたというのだ。  
 

  それはないよ、横尾さん。写真を方形状にというが、碁盤目状に無数に並べて注目させる手法など、デザイン的にはもっともシンプルなパターンじゃないか。素人でも考え、一般 的に多用されている。横尾忠則のオリジナルでも、何でもない。どうしたのだろう、横尾さん。有名人ボケしちゃったのかな。  どちらかというと私は、政治権力と密着しがちで、透明性の希薄になりがちな大企業が嫌いだ。したがって断じて、資生堂びいきではない。しかし今回に限り、同じ美術関係者の一人として、いや同じ美術関係者だからこそ、どうしても彼のクレームに同調できないのだ。知名度を盾にした狭量 な行為としか思えないのである。資生堂側の制作ディレクターも、決して盗用には当たらないとコメントしている。それは、そうだろう。もしも、顔写 真の規則的な集合パターンに著作権があるのだとしたら、とてもデザインなどやっていられないのではないか。  
 
  だが資生堂も、或る種イメージ企業の一つ。著名人相手に事態がエスカレートするのをマイナスと計算したのだろうか。結局、今回のキャンペーンデザインの使用は取りやめることになった。横尾も横尾だけれど、無抵抗の資生堂もまことにダラシがない。

 

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