折々の眼(23)  川口さんとのコラボレーション ワシオ・トシヒコ(美術評論家)



              

 私が展示構成する展覧会を、必ずといってよいほど観てくれる作家が何人かいる。川口ゆうこさんも、数少ない一人だ。その川口さんの企画個展が、去る10月25日から30日まで、銀座七丁目の画廊宮坂で開かれた。  

 もちろん、展示構成は私。私の展示構成の請負い法は、完全に現場主義だ。あらかじめ作家や画廊と特別 に打ち合わせたり、注文をつけたりすることなど一切ない。したがって、どんな数や質の作品が搬入されるか、当日にならなければ皆目わからない。今度の場合、早めに刷り上がってきた案内状を見ると、個展タイトルが「未知数」となっている。素っ気なく、無機的だ。図版作品を確認すると、緑色系のグラデーションのタッチやタシスムの間隙から、微妙な空気が通 っている。「未知数」どころか、これからの制作の展開を示唆するような、きわめてデリケートな感覚で充たされている。そうか、あえて「未知数」と題したのは、心機一転し、新たな第一歩を踏み出そうとする作家としての強い決意表明なのだなと勝手に解釈し、自分を納得させることにした。  

 当日、搬入された数十点余の作品を前に、或る種の感慨を禁じ得なかった。スペースの関係で大作がないものの、ほどよくいくつかのサイズのタイプにまとめられ、個々に微妙なニュアンスの差異を含ませつつ、全体をシリーズ的作品と見做してよいような美的統一感がある。私にとって、手離しで歓びたくなる品揃えだ。展示構成がやりやすい。見映えもする。お陰で私の展示構成のセールスポイントであるコ

ーナー(角)やエッジ(端)や柱などを存分に活かしきることができた。あたかも、これまでの私の展示構成技法のすべてをコンパクトに披露する“総集編”、とでもいえるような。初めて画廊を訪れた水墨画家などは、「新鮮さ、美しさに感動した。緑と白の詩的な世界に包まれました」と早速、わざわざ感想を寄せてくるくらいだった。  
 
  しかしいま振り返えると、あれはもはや個人展というより、川口ゆうこと私のコラボレーションと評する方が適切だったかもしれない。川口さんは、あまりに優しすぎた。次回には私の展示構成など意識せず、むしろ私を困惑させ、挑発するような取り組みであってほしい。作風的には、昨年の「アート未来展」あたりから、それまでどことなく密閉され、いくらか重苦しかった傾向が一新され、やっと明るい透明な光と空気が通 い始めてきたように思われる。今回はそれを裏付け、これからの展開をのびやかに溌剌とさせて行ける自信を得たのではなかろうか。  
 
  川口さんと知り合い、どのくらい経つだろう。「亜細亜現代展」の表彰式で初めて出遇い、私が年間に何回か出講する女子美術大学の出身という幸いも手伝ってしぜんと親しくことばを交わすようになった。何よりもまた、私の展示構成を見逃さない優等生であることに、私は感謝しなければならないだろう。

 

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