続・足裏庵日記(30)   ― 杞 憂 ―  中野 中 (美術評論家)


 東京・六本木の国立新美術館(The National Art Center Tokyo)が開館した。それが特徴の、膨らんだガラス壁による波打つ形の外面 の後方に、四角い箱のような建物が合体している。美術館として日本最大級の1万4千平方メートルの面 積をもつ展示空間である。  

  民間の美術公募団体に貸し出す1千平方メートルの展示室が10室と、2千平方メートルの企画展示室が2室。国立美術館として5館目。収蔵品を持たない巨大展示館という特異体質をもった美術館である。  開館記念展として〈20世紀美術探検―アーティストたちの三つの冒険物語―〉にひき続き〈ポンピドー・センター展〉が開催されているが、先日の開館レセプションに集まった公募展関係者の顔は満面 微笑で、なかには「30年来の夢が叶った」という人までいた。その夢の実現は4月4日の水彩 連盟展、示現展、創元展の開催をもって始まるわけだが、夢の実現とばかり諸手を挙げて喜んでいられるのか、私には一抹の危惧・杞憂がないではない。  

  六本木周辺には、現代美術中心の森美術館、歴史的な収集品を持つ大倉集古館や泉屋博古館分館があり、休館中のサントリー美術館も間もなく防衛庁跡地で再開する。国立西洋美術館や国立博物館、上野の森美術館や東京文化会館などが集まる上野公園と、一味違った美術文化圏が育つことに期待したい。  

  そんな状況や環境の中で公募美術展も成長・発展することを願うばかりであるが、ことはそう簡単ではないのではないか。

 まず、公募美術展会場が上野と六本木の二つに割れる。六本木には上野から70団体などが移向するが、私の仄聞ではどうやら新しいところで、広いところで、とにかく心機一転をはかりたいといった動機がほとんどのようだ。確かにもっと広い会場を求めてという団体もある。そんな団体も含め、ほとんどの団体が、会場獲得優先順位 が広い会場希望にあったため、従来よりもより広い会場をゲットしている。そのための経費はともかく、内容の質の維持・向上が計れるかどうか。まず量 的増加のために入選水準が下がる惧れがある。一般入選すなわち底辺が低レベルで広がることで頂点も低くなる惧れなしとしないのがこうした団体にみられる傾向である。また、会員にこれまで以上の大 作が求められる。 120号だったものが300号になったとき、内容が薄 まる心配もある。 大きさに合ったモティフ、テーマということもある。両面からすべてが水増しにならないか。  

  もう一つは展示の仕方である。一部屋1千平方メートルが単位の広さで、部屋中央には柱がない。自由な展示が可能だ、可能性があるということだ。壁面 が広がったからといって一段がけで万遍なく展示したら、どういうことになるか。アクセントをどうつけるか、立体的な展示がどう出来るのか、等々知恵を絞る必要がある。そこに楽しみと同時に、一抹の杞憂が拭いきれない。それがとりこし苦労に終ることを願ってやまない。

 

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