続・足裏庵日記(33)   ― 選 挙 寸 感 ―  中野 中 (美術評論家)


 我家の夕食はほぼ7時である。今夜は8時からの参議院議員選挙の開票につき合うつもりで、あまりふだんはやらない晩酌を到来ものの活帆立の刺身を肴にのんびりと始めた。7時のNHKニュースのあと見るともなく大河ドラマ『風林火山』が終わって8時、いよいよ開票の始まりである。  

  軽い昼食のあと、雨が心配されたので車で妻と投票に出かけたのだが、投票所に着く直前、沛然と雨が降り出した。まさに一転にわかにかきくもり、といった様子で大粒の雨滴が車を叩き始めた。あまりの凄さに駐車場に留めたまましばらく様子をみることにした。駐車場から投票所の入口までわずか10余メートルほどなのだが。傘などものの役に立ちそうにないほどの降りなのだ。待つほどに雨足は強くなり、雨滴が滝のようにフロントガラスを流れ、あまつさえ稲光と雷鳴がとどろき、突風が小さな車体を揺らしてくる。  

  手持ちぶさたの車内の私たちは素人なりの選挙結果の予想をし、安倍政権や閣僚たちのスキャンダルなどをあげつらったりした。それにしても凄い降りっぷりである。まるで嵐のようで台風でもこんなひどいことはなかった。暗雲がたれこめているのだろう、昼日中というのに辺りはうす暗くなっている。  

  「こりゃ大波乱の予兆かも知れないね、自民大惨敗、民主躍進はあり得るね」  

  車内でのたわいない会話だったが、開票速報が始まり1時間もすると、それが現実味を帯びてきた。結局今朝(翌日)の新聞は、残り4議席で民主党59、自民36の数字を報じていた。

 それにしても開票が始まってすぐ、当確が出る、ひとりふたりでなく、続から続とです。しかもテレビ画面 右上には〈開票率〇%〉とある。開票する前に既に結果が判明しているのだ。出口調査とかそれ以前のアンケートや厖大な調査資料を解析判読してのことであり、NHKの力の凄さを思うのだが(私にこうした調査やアンケートは来たことはない)、さあ獲得投票数の表やグラフを見ながらその推移を楽しもうとする興味も失せて、何のプロセスもなしに手品の種明かしをされてしまったような味気なさが残る。  

  10時をまわったころであろうか、態勢がほぼ決まったところで安倍首相が登場し、いきなり続投を表明した。首相の顔にふさわしいのは安倍か小澤か、と連呼していたのは誰だったのか。反省すべきところは反省し…、私の美しい国づくりはまだ始まったばかり、を繰り返す。この行き方に国民がノーを突きつけたが、蛙の顔に小便である。ツラッとした顔つきで、反省すべきところは反省し…と抽象的な弁ばかり、少しも明確にするところがない。  

  驚いたことに、自民党幹部がこの続投発言に苦言を呈すどころか、一枚岩となってなどと追従の数々、政治家としてどこまで骨を失くしてしまったのだろう。そしてこんな自民党に任せきってきた私たちは何だったのだろう。  

  民主党が節を通して、日本も二大政党政治を迎える時がやってきたのだ。

 

topページへ
2002〜2007 essayへ