続・足裏庵日記(35)   ― 新美術館の功罪―  中野 中 (美術評論家)


  美術界における最大の話題は何と言っても、やはり東京・六本木の国立新美術館の開館であろう。  

 総ガラス張りの波打つ壁面はいかにも新しい潮流(ウェーブ)を予感させ、美術界のみならず多くの人々の注目を集めた。さらにミッド・タウン(この中にサントリー美術館がある)のオープンを迎え、六本木ヒルズの森美術館と合わせて〈六本木トライアングル〉などという言葉も生まれた。  

  1月21日に「20世紀美術探検―アーティストたちの三つの冒険物語」で活動を始めた国立新美術館は、現在に至るまで独自企画はこれのみで、企画展示室ではその後、2月から5月へかけてのポンピドー展や4月から7月 のモネ大回顧展、 そして現在開催中の『牛乳を注ぐ女』1点のフェルメール人気におぶさったものまで、いずれも美術館巡回展で埋めてきた。  

 かたや貸館では、都美術館から移行した公募団体展が4月から引きも切らずに現在の日展に至っている。  

 ここでは貸館の団体展に話題を限るが、やはり初めての会場ということで展示・運営等にずいぶんとまどいと苦労があったようで、担当者は大変な思いをしたことは想像に余りある。こうした試行錯誤は次回に生かせばいいことであるが、問題は作品である。運営側と同じく出品者側にもとまどいがあったことも確かだ。総じて各団体とも会場スペースを広くしたため、出品者に従来以上の大作を求めたり緩選にしたため質的水準に破綻がでたり、あるいはいた

ずらに大きさや点数に頼らず特設室を用意したり企画展示を考えたりと、これも各団体各様で、外野席からはその様子が興味深くもあったりした。 

 なかで特筆すべきは全室借り切った二科展が、むしろ厳選によって数を絞りこんだことで、質的水準を高め展示効果 も挙げていた。その結果、入場者も大幅に増えたと聞く。他の団体にとっても他山の石となろう。  

 展示の工夫もそれぞれであったが、新しい空間を見事に活かし切ったといえる団体はなかった。今開催中の日展もそうだが、展示巡回コースが迷路のようになってしまって、巡回案内表示や部屋番号に注意していないと見落としてしまったり、戻って見直したりという煩雑さに陥った。ついでに日展の彫刻や工芸の展示は展示場所・空間が変っただけという工夫のなさでがっかりした。その点、新制作展の彫刻部は実に気持ち良い空間をつくり出していて感心した。  

 細かく言えば他にレストランや休憩室、トイレ、喫煙室など注文は多々あるが紙幅がない。設計者の黒川紀章氏も鬼籍に入ってしまった。ここでは控えておく。  

 喜ばしいのは概して入場者が増えたということ。新しいもの見たさの結果かとも思うが、そればかりではあるまい。この増えた観客をいかに惹きつけてゆくかも又、大事なテーマだ。  

 気がかりなのは、新美術館と都美術館で共に開催されている公募展に相乗効果 が見られない、あるいはその努力が見られない。共存共生をはからねば発展はかなわない事を知るべきだ。た。

 

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