続・足裏庵日記(38)   ― メタボ狩り ―  中野 中 (美術評論家)


 腰の定まらない教育要綱を繰り返し改変する文科省の〈少年狩り〉、後期高齢者の年金天引きをする厚労省の〈老人狩り〉、そしてついに〈メタボ(中年)狩り〉が始まった。  何かやろうとすると必ず何々委員会や審議・諮問会をつくっては予算をふりわける。小さな行政どころかますます太るばかりではないか。中年イジメの〈メタボ狩り〉の前に、みずからのお役所体質のメタボ改善のほうがよほど肝要かつ急務なのではなかろうか。  
  動脈硬化、糖尿病、脳卒中の三大生活習慣病の要因が内臓脂肪型肥満、いわゆるメタボリック・シンドロームにあることは、これまでもさんざん言われてきた。  確かに、ヘビメタでいていいことなんてほとんどない。見た目にも美しくないばかりか、見た目で不当に評価されることもしばしばだ。だから痩せなさいという、一見とても親切なお達しなのだ。  
 
  新制度の一つに、腹回りの測定が40才以上に義務付けられ、男のメタボ基準は85センチ。それが着衣のままでも自分で測ってもいいという。ずいぶんアバウトで、本当に腹が決め手なのか疑いたくもなる。  
 
  いま日本で一番売れ行きの伸びている薬は、血圧改善薬だという。これは、血圧の高い人が増えているからではなく、高血圧とされる基準数値が年々下がっているからなのだ。異常とされる最高血圧数値は00年に180mmHgから170に、そして今は130にまで引き下げられている。これまで血圧に問題のなかった人が、知らないうちに〈異常〉もしくは〈危険〉になってしま

う。そして病院や薬局へかけこむ人が増えるという寸法だ。腹回り85センチもこれと同じで、何やら風が吹けば桶屋が…を想起させる。  
 
  読売新聞(3月30日夕刊)によると、厚労省のメタボ健診のガイドラインを作成した委員会メンバーのうち医師11人に02〜04年の間に計14億円の寄附が治療薬メーカーからあったと報じている。やっぱり、だ。ここにもカネの臭いが…。 厚労省のメタボ基準を当てはめると、40〜74歳の男性のうち94%、女性の83%がいずれかの項目で〈異常〉と判定される、という試算も出ている。  

  10人のうち9人が異常だなどということが、ありうるのだろうか。大国日本にもう一つ、健康異常大国の冠を用意しなければならない。  

  より良い状態への体質改善にもちろん異論はない。ただそれは、あくまで個人に帰すべきことで、少なくても自発的であるべきだ。  幸か不幸か私自身は入院体験はない。少しずつ何かにつけ老いは意識せざるを得なくはなっているが、やはりどこか呑気であり、慢心があるのかも知れない。それでも、痩せる努力をするよりも、好きなだけ美酒を楽しみ、おいしいものを食べる喜びを失いたくはない。  
 
  内臓脂肪型肥満のこわさを認識した上で、生活改善や健康管理等のライフ・スタイルは個人の責任にゆだねるのが本筋だ。少なくともお上から指図をされたくはない。

 

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