折々の眼(39)  巨匠“対決”の軍配どちらに  ワシオ・トシヒコ(美術評論家)



              

 現在世界最長寿を誇る美術研究の年刊誌「國華」が創刊され、ことしで120年。それを記念しこの夏、上野の東京国立博物館で「対決―巨匠たちの日本美術」が賑々しく開催された。私も東京都美術館の「フェルメール展」のレセプションに合わせ、その日の午前中に展観した。  

  会場で無理矢理「対決」を強いられる鎌倉時代から昭和までの ″巨匠たち″が、真に巨匠に値するのかどうかはさておき、古美術の門外漢に取っては、野次の一つや二つ飛ばして観戦してみたくなる企画であるのは確か。作品的には必ずしも代表作ばかりを結集させたとはいえないにせよ、観客の大量 動員に成功した点では、主催者の企画アイデアというか、切り口の勝利となったことは、素直に認めてよいだろう。  

  さて、それら一二組二四人の巨匠たちの対決に、特別な時代的、作品的厳密な根拠があるわけでもなさそうだ。それならいっそ私の方も、野次馬根性丸出しの観客の一人として、無責任に面 白がり、比較対決の行司役として勝手に土俵を想定し、どちらかに軍配を上げてみようとした結果 、次の通りとなった。

@運慶VS快慶 同じ重文の地蔵菩薩でも、運慶の坐像と快慶の立像の対決。甲乙つけ難く、引き分け。

A雪舟VS雪村 古典的で大真面目な雪舟をからかっているような雪村に、親近感が湧く。

B永徳VS等伯 大胆で繊細な等伯が、圧勝。 C長次郎VS光悦 出展物量の多さで、光悦。 D宗達VS光琳 出展物量の幅の豊かさで、宗達。「白楽天図」「竹梅図」の屏風で善戦した光琳だったが…。

E仁清VS乾山 僅差で仁清。

F円空VS木喰 意外や意外、この対決がもっとも数量的にバランスが取れ、がっぷり四つの見応え十分の取組みだった。シャープなフォルムと福顔丸彫りの両極端な両者。自然に埋もれる木喰に対し、円空はあくまでも虚空と対峙。現代感覚につながる円空に軍配を上げる。

G大雅VS蕪村 「鳶鴉図」「夜色楼台図」のインパクトで、蕪村。

H若冲VS蕭白 対決そのものが期待外れ。「唐獅子図」で蕭白の勝ち。若冲「石灯籠図屏風」の点描描写 には、注目した。

I応挙VS芦雪 何を隠そう、私は大の芦雪ファン。彼の奇想は、単なる奇想の域を超え、知的にモダンで、現代美術につながる面 が多々ある。

J歌麿VS写楽 浮世絵の真髄は、春画にあり。したがって出展がないものの、春画の名手歌麿に凱歌をあげたい。

K鉄斎VS大観 漢画ふうなのが気に入らないけれど、人間的な大きさで鉄斎。  以上、「名匠、巨匠展」とすれば無難なのに、「対決」という二字を冠したせいで、このようなアソビも可能になったという好例。いかがですか、皆さんも試みては。

 

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