今月の課題 「神戸全美20周年を迎えて」  編集主幹 松原 清

 

 新年あけましておめでとうございます。暮れの慌ただしさを何とかクリアして新しい年を迎えた喜びはまた一際感慨深いものです。旧年中の並々ならぬ 御厚情を感謝申し上げますとともに本年も宜しくお願い申し上げます。  
 さて、今年は私が前任者の尾関文穂氏より全日本美術新聞社を引継いで、岡山から本社を神戸に移してから満20年を迎える年となります。振り返りますといろいろな困難、失敗が思いだされますが、よくぞここまで頑張れたと思います。ただ美術が好きで少しかじっただけの私が、何も知らないこの世界に飛び込んでやってこられたのも多くの人達の心温まる応援をいただけたからに他なりません。何しろ34歳という年で、まして一度も美術紙の仕事の経験のない私がこの業界の仕来りや繋がりを知る由もなく、全くの手探りで始めることになったのですから。誰一人の先生を紹介されることなく前任者が病気で逝去されたしまったことの不安は相当なものでした。しかし、逆に知らなかったから知りえたということもあります。もし、以前の美術新聞の営業姿勢を踏襲していたら今の全美はなかったかもしれません。美術界も20年前くらいから第二次絵画ブームが終り、明治生まれの錚々たる、いわゆるカリスマ的な作家が亡くなりつつあり、大正から昭和生まれの作家との世代交代を迎えた時代であったような気がします。また、不景気は業界をせち辛くして真に解りあえる作家と評論界の関係は少しいびつになってきた、そんな中での神戸の出発でした。

 

 ちゃんと誠意を尽くして対応すれば、作家もこちらを向いてくれると実感できたのは、東山魁夷先生の取材でした。この仕事は正に人です。人の誠意が人を動かす、ただただその思いではじめの10年をやり遂げ、そうした人の和の中、中野中氏の労で大山忠作先生と平松譲先生に発起人を引き受けていただき10周年の小宴を開催したのも昨日のことのようです。あの阪神大震災の年です。あれから10年、遅々とした足取りでしたがこの仕事を引き受けて以来、一度の休刊・合併号を出すことなく続けてこられたことが、ささやかなそして唯一の私の誇りであります。しかし、真実をさらりと言い切れる強さをまだ持ちえてはいません。美は是非の世界でなく、あいまいなベクトルの収束の先にあると思います。民衆、社会がその時代の美をつくるからです。美術紙の在り方は書くことにより、ひとつの示唆を投げかけることだと信じています。こういう見方、考え方もあるよ、と。また、真の芸術家たらんとしている作家に多く登場していただき、美術界に広く知らしめることはもちろんですが、その作家たちを見続けることが大切だと思っています。そして、将来にそんな作家達の展覧会の企画が出きればと思います。  
  前号に今年5月に全美連載の単行本を3冊発刊する旨を書かしていただきましたが、登場作家の記念展を6月22〜25日まで「明日への夢展」として開催予定であります。夢に向かって。  本年が皆様方にとってより良き年となりますよう祈念申し上げます。


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