今月の課題 「神戸全美20周年」  編集主幹 松原 清

 

神戸全美の10周年の小宴を新神戸オリエンタルホテルで開催したのは、阪神淡路大震災の復興もすすみ、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった平成8年10月5日であった。前年が本当は10年目に当たる年であったが、震災の復興下の中とても出来るような状況ではなく、満10年として開催させていただいたのである。  まだ実力も伴わないのに、10周年の小宴を開こうと思ったのは、ある意味震災を経験したことのウエイトが大きい。当時はあれこれ考えていたが、今思い返すとそうだったんだと断言できる。路地の古い家は軒並み倒れ、大きなビルが横倒しになり、阪神高速は寸断され、大火災でなめ尽くされた街。全美の事務所はそんな中、倒れずに残っていた。また、幸いなことにスタッフは全員無事であった。無論事務所の室内は、ありとあらゆる書類、書籍が散乱し、ファックスは反対側の壁までコードを千切って飛んでおり、パソコンは宙づり状態(奇跡的にデータは無事だった)。また、細い路地を挟んだ向かいのビルがこちらに10度程傾いて今にも崩れかかってきそうであった。頻繁に余震も続いており、怖いので事務所の資料を自宅に持ち込んで2月号、3月号を編集、スタッフも遠路加古川まで通 ってくれた。2月号は私が全美を引き継いで、2頁不足の14頁となった唯一の新聞だが、一度の休刊、合併号を出さずに続けてこられて、尚且つこの異常事態を乗り切れたことは、天が「もっと頑張れ」と言っていると思ったからである。よし、10年を一区切りにして新たに頑張るぞ、と。

 

 早いものであれからまた10年が経った。残念でならないのは、あれほど精力的に企画検討し、実施直前までいった『夢賞』が震災後のバブル崩壊で協賛企業が立ち行かなくなり断念せざるをえなかったことである。しかし、自選ギャラリーとして毎号二人の作家を紹介し続けてきたコーナーが7年で160名を数え、田宮文平氏に企画執筆して頂いた昭和二桁台に絞った時代を担う書人探訪が5年、60名を数え、この20周年を機に単行本を発行することとなり、5月中を目標に編集作業に入っている。また、それらに登場頂いた先生方による展覧会を弊紙企画展として原田の森ギャラリー本館および西館(旧兵庫県立近代美術館)で開催させていただくことで、今後、全美が次代へ向けた企画展開催のスタート展としたいと思っている。無論、出品料をいただかない純然たる企画展である。それが企業協賛を受けられるように発展すれば、当初考えていた『夢賞』へと繋がっていく。夢を捨てることは私の理念を捨てることである。そうなれば美術新聞を発行する意味はなくなる。大勢の御購読の方々、またいろいろな先生方の御厚情に支えられて神戸全美は20周年を迎えられた。美術界に何らかの恩返しが出来れば…その気持ちだけは忘れずに頑張っていきたいと思う。


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