夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「 師走に想う 」   編集主幹 松原 清
 今年も早師走となった。一年が本当に慌ただしく過ぎていった感があるが、何といっても今年神戸全美にとっての一番最大のイベントは、20周年の展覧会と祝賀会の開催であった。昨年秋頃から本紙に連載してきた「自選ギャラリー」と田宮文平氏に執筆頂いてきた「書人探訪」、それに「今月の課題」の三冊の単行本化に取り組み、併せて「自選ギャラリー」と「書人探訪」に登場頂いた先生方による展覧会を原田の森ギャラリー(旧兵庫県立近代美術館)の本館および西館1・2階で開催し、また20周年の祝賀会を10周年に続き新神戸オリエンタルホテルで実施し、盛会裡に終えられたことは何より嬉しいことであった。今になってがむしゃらに取り組んできたこのイベントが大きな賭けであったと胸を撫で下ろしている。参加いただいた多くの先生方に感謝の気持ちで一杯である。  
  一方、大切な先生方の御逝去があった。書家の金子卓義氏と劉蒼居氏の相次ぐ訃報は書道界にとっても大きな損失であった。関東、関西の今後の書道界における担い手を一気に失った感がある。特に劉氏については筆者は20年来のお付合いをいただいてきており、社中の玄心展、選抜の飛 展はもとより、日展会員就任から日展会員賞、総理大臣賞、そして芸術院賞受賞とその折々にいろいろなお話を伺ってきた。日展理事に就任し、これからという矢先のこと。少し落ち着いたら一度ゴルフに行きましょうと約束していたが、その約束も果 たすことが出来なかった。洋画界では芝田米三氏の急逝が心に残る。全美の20周年イ
ベントにも参加頂ける旨御連絡あったその1週間後の訃報であった。日本芸術院会員に就任されたが、その年の阪神大震災に配慮し翌年まで祝賀会を延ばされたこと、音楽家の生地を辿る海外取材のお話を個展会場で身振り手振りで語って頂いたことが思いだされる。  
  その一方で朗報もあった。高木聖鶴氏の文化功労者顕彰は久々に書道界に清々しい一報をもたらせた。日展総出品数の70%を占める書が何故3名の芸術院会員枠なのか、芸術院賞受賞者あふれる書道界のその問題点を改めて考えさせられる。そんな中、村上三島氏の逝去による補充選挙で院賞最古参の古谷蒼韻氏が当選、今後の采配が改めて期待される。  
  さて、世間の流れに目を移すと、小泉劇場の閉幕に伴い阿倍晋三首相の内閣が成立、郵政造反議員の自民党復帰問題で揺れている。次の参院選を見越してのことだが、政治倫理の欠如は如何ともしがたい。まさに何でもあり。「美しい日本」のキャッチフレーズは大変結構なことで、そうあって欲しいが、まだ具体的な中身が見えてこない。北朝鮮の脅威、また730兆円もの借金国に転落する中、人と人との絆、自然への愛、恥の文化が崩れ去ろうとしている日本をどのように再生していけばいいのか、大きな 課題が我々を覆っている。  
  そんな中、来年3月ウフィツィ美術館の至宝、ダ・ ヴィンチの「受胎告知」が 東京国立博物館で初公開される。 文化の本質を考える良い機 会になるかもしれない。

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