夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「台湾故宮リニューアルオープン(3) 」   編集主幹 松原 清

 残念ながら、范寛の「谿山行旅図」、郭煕「早春図」、李唐「万壑松風図」の注目の3点も前期の展示で見られなかった。予めインターネットの台湾故宮美術院のホームページで確認した人は、前期最終、後期初日(2月7日、8日)を予定に入れた日程を組んでいたようで、私たちの旅程の詰めの甘さに少し反省したが、美術評論家協会の各自の都合のベストを選んでの計画だからこれも致し方ないとひとりごちた。  
  ちなみに范寛の「谿山行旅図」は、北宋中期の仁宗皇帝の時代の作品で、范寛についての記録はあまり残っていないが、陜西華原出身の平民画家で温厚な酒好きと伝えられている。作品は画面 の殆どを切り立つ山で占められ、圧倒される程の重量感で観者に迫ってくる正に北宋山水画の特徴が顕著に表れた傑作で、画面 の右下には4頭の驢馬の商人の一団が描かれている。全体からみると芥子粒ほどの大きさだが、先頭を歩く髭男はムチを片手に先を急ぎ、その後に続く驢馬は重い荷物を背負い頭をたれ、ゆっくりと歩んでいることが判別 できるほど緻密で且つ表現力が豊かなことが図録からでも伝わってくる。遠山を真近にあるが如く描き巨大なパースペクティブを実現させた絶妙の遠近感は特異で、范寛の作品は後の北宋後期の宮廷画家にも多大な影響を与え、北宋山水画の三大流派を創設した人物としても知られている。  
  しかし、李唐の作品に付いては「江山小景」、「坐石看雲」の2点を見ることが出来た。共に俯瞰構図だが、全

体把握が実に的確で表現も大胆。また、宋代花鳥名品の徽宗「蝋梅山禽」も逸品であった。日本にある  「桃鳩圖」が国宝指定になっていることでもその重要性は分かるが、徽宗は北宋八代皇帝で最も芸術面 に優れた人で詩書畫三絶の才を持っていた。そして、台北故宮博物院所蔵の21点に日本(大阪市立東洋陶磁美術館)、イギリスなどから借り受けた北宋汝窯青瓷の名品の展示は流石の感があった。この青瓷は世界中で70点程しか現存していない。  
  2時間ほどかけて特別展「大観」を巡ったが、その頃には人もだんだんと増えてきて落ち着いて見られる雰囲気でなくなった。昼食にしようと食堂(4階、三希堂)にあがったが、超満員。弁当も用意してないので、仕方なく待ったが、どうにか食事にありついたのは1時間後だった。昼食後再度「大観」に入ろうと思い入り口に戻ってみると、人垣で一杯。入場制限されていて1時間の待ち時間となっており、他の展示室を巡ることにした。3階に展示されている白菜を模した「玉 燦珠光」はやはり凄く、「所蔵印鑑展」の古印も興味をひいた。日本人向けの解説機も完備していて今回とても鑑賞に役立ったが、日本向けの「大観」と書かれた図録が実にお粗末。概要解説だけが日本語で個々の作品解説が中国語では如何なものかとの質問を副院長との懇談の時にしてみたが、満足な答えはなかった。  展覧後、超渋滞に再度唖然。雨の夜市もまた一興の台北行であった。  (完)

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今月の課題