夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「 花嫁の父 」  編集主幹 松原 清

 昨年の4月に長男が結婚し、今年6月の梅雨の晴れ間に娘が結婚式を挙げた。あっという間に家は女房と私の二人だけの生活となってしまった。やっと親としての責任を果 たしたという安堵感が大きいが、寂しい気持ちはもちろんある。特に女房は、私が取材や事務所缶 詰めの原稿書きで家に帰れない日が多いのでひとりで食事をとるのが日常化してしまっており、子供が離れていった感覚は私以上にあると思える。  
  東京他出張取材は仕事として最優先しなければならないが、せめて原稿を定時内で切上げ、食事くらい一緒にとれるように改めなければいけないなと思うようになった。そう思うものの現実は厳しい。追いつめられないと、考えが散漫になって言葉が浮かんでこないという20数年来の原稿書きのスタンスがすっかり身についてしまっている。本当は無理しても机に座って何か書き出せば、そのうちに考えが前向きに広がっていき、言葉も生まれてくると思うのだが、逃げ出したくなるのである。書かなければいけないモードに如何に自分を追い込んでいくか、毎月毎月が正直自分の軟弱な心と、使命感との闘いといえる。文章を書くのが楽しいという人種にどうも私は属していないように思う。5W1Hで定番の記事を書くのなら今でもそんなに苦にならずに書けるが、こと評論となるとそうはいかない。いろんな思いが交錯する中、言葉を取捨選択しながら自分の審美眼を信じて書き進めなければならない。何十もある作品に対して同じ言葉の繰り返しを書くことはできない。そんなリズムのない文章は私自身も読みたくはないから

だ。ここで自分の語句の乏しさに嘆くわけだが、作品のイメージにフィットする言葉選びは今までも自分なりに努力してきた。「もっと余裕のある時に書けば いいのに」とは、事あるごとに言われる言葉だが、本当はその余裕の時間にもっと専門書を読破しなければならないと思う。その上で怠け者の自分をどのように鼓舞させて毎月の関門をクリアするか、こうした葛藤はこれからも恐らく続いていくに相違ない。明日への自己変革に向かって。  
  さて、娘の結婚で15面の「ななこのArt interview」をしばらく休止させていただくこととなった。「神様からの贈り物」の兆しがあった為である。無理してもいけないし、担当を変更しても一貫性のないものになってしまうと思ったからである。二年間休みなく続いたこの連載はすこぶる好評で、ある意味斯界のトップに位 置する先生方の生き様を若い感性で記事にするという新鮮さは、全美の紙面としても貴重であった。休稿の間に少し整理をして、再開出来るよう準備はしておきたいと考えている。  結婚式で「花嫁の父」は泣くものだと言われているが、私は不思議と涙は出なかった。娘を取られるという気持ちはなく、この縁を心から祝福したいと思っていたからである。娘から何か弾き語りで歌って欲しいと言われ、散々悩んだあげく選んだ「乾杯」に私の気持ちのすべてをのせた。  
  「君にしあわせあれ」。

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