夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「 フェルメール狂想曲 」  編集主幹 松原 清

 8月2日から東京都美術館でフェルメール展が開会された。12月14日までのロングラン。何でも日本がオランダをはじめ、諸国と通 商条約を結んでから丁度150年となる年にあたることと、徳川幕府がオランダに朱印状を発行し、平戸で二国の貿易が開始されてから来年が400周年になることで、日本とオランダの政府間で日本オランダ年2008〜2009が結ばれたことも関係しているという。そういえば、昨年末に開館記念として国立新美術館で開催された「アムステルダム国立美術館蔵のフェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」もその一貫の事情で実現したのかもしれない。  

 フェルメールといえば、あまりにも有名な作品がある。もう8年前になるが、大阪市立美術館で開催された「フェルメールとその時代」展にこの「真珠の耳飾りの少女」(青いターバンの少女)を見ようと日本全国から大阪に美術愛好家が押し寄せ、これまでの大阪市立美術館の入場者最高記録をつくったが、今も恐らくその記録は破られていないだろう。私も相当興奮して初公開された5点のフェルメール作品を食い入るように見たことを思いだす。「地理学者」、「天秤を持つ女」も大作で見応えある作品であった。そして今回の都美館の7点のうちのひとつ「リュートを調弦する女」と真作に疑義ある「聖プラクセデス」。だが、時代展に供された他の参考作品の記憶は残念ながらない。その時以来私自身がフェルメールの魅力のとりこになってしまったようだ。図録を読み、関係の本類をいろいろと読みあさった。もちろん「真珠の耳飾りの少女」の映画も2回見た。

 

実は、今から36年前にヨーロッパに初めて美術館巡りの旅をした折りに、レンブラントの「夜警」を見ようとアムステルダム国立美術館を訪れた。例の切り裂き事件で目当ての「夜警」は見られなかったが、記憶に焼き付いた作品があった。それが「牛乳を注ぐ女」だったのである。当時はまだ、20歳を過ぎた頃でその作品がフェルメールと知ったのが、その28年後の大阪展の時だというから勉強不足も甚だしいかぎりである。  

 さて、どうしてフェルメールは日本人に好まれるのであろうか。当時のオランダでは貴族からの注文肖像画がすでに定着しつつあった。画家の組合も発展して建物、風景、肖像とその専門分野も固まりつつあったようだ。しかし、肖像画といえども宗教的な香りや道徳的規律を示唆したり暗喩したものが多い。そんななかフェルメールの作品の大部分は室内の日常的な風景を描いており、身近に当時の生活が感じられるし、宗教的なギャップを越えた美そのものとして捉えられるからではないだろうか。それに30数点という絶対的作品数の少なさが、作家の神秘性を増幅させる。今展にも真作に疑義のある「ディアナとニンフたち」と37点目の発見として精力的な鑑定が実施されていた「ヴァージナルの前に座る若い女」が出品されている。当初予定の「絵画芸術」が「手紙を書く婦人と召使い」に差し替えられたことも意味深だ。


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今月の課題