夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「 オバマ大統領の就任 」 編集主幹 松原 清

 1月20日、アメリカ合衆国第44代大統領に就任したバラク・フセイン・オバマ・ジュニア氏。私は東京のホテルで就任式の現地中継を偶然に見ることが出来た。夜中の3時ころ、何度目かの肩の鈍痛に眠られずテレビをつけたところ、広場を埋め尽くす観衆が映し出された就任式の会場風景が飛び込んできたのである。200万人がその歴史的決定的瞬間を共有したいという熱狂現象に、アメリカという国のパワーを改めて感じさせられた。多民族国家の極みとも思えるアメリカだが、白人主義が建国以来ずっと根底にあったことは否めない。そのアメリカに黒人の大統領が初めて誕生したのである。観衆の中の黒人の婦人、労働者風の男の目が涙で潤んでいる。かつてのキング牧師の夢がかなったといえるだろう。オバマ氏が大統領候補になったいきさつを考えると、ブッシュ政権への国民の失望感に行き着く。大企業優先、イラク侵攻による世界各国からのバッシング、アメリカの威信の低迷、テロの激化、グローバル資本主義の行き過ぎによる貧困の増大が背景にある。医療保険や年金制度の不備もある。そこに2007年7月のサブプライムローン問題に端を発した世界恐慌が加わった。当初予備選で圧倒的有利と予想されていたヒラリー・クリントンだが、経済不況の一番の被害者は貧困層にある訳で、同じ改革を叫べば黒人オバマに追い風となることは明らかで、演説の骨子も揺るがないオバマに対し、ヒラリーは強制加入の国民皆保険計画を看破され、更に敗北が決定的になっても予備選中に暗殺が起こるかもしれないからとの理由で最後まで予備選を継続すると言って、痛烈な批判をあびた。

 そして2008年6月3日、オバマは民主党の大統領候補指名を確定させたが、彼が集めた代議員数は必要過半数をわずか33人上回る2151人であったという。全体の絶対得票数で圧倒的に勝っていても、多数の代議員を要する洲で負ければその代議員数すべてを失うというアメリカの選挙のからくりは、やはり白人主義の遺産かもしれない。

 大統領選は共和党のジョン・マケイン候補との対決となったが、9月のリーマンショックはビッグスリーの壊滅的崩壊に繋がり、ブッシュ政権に失望の色を隠せないアメリカ市民に継続の選択はなく、「チェンジ」、「イエス、ウイキャン」を熱弁したオバマの圧倒的勝利が決まったのは11月4日であった。就任式に奴隷解放を宣言したリンカーンの愛読した聖書に誓うオバマ大統領の決意の横顔が印象的であった。

 しかし、試練はこれからが本番である。日本も世界のトヨタがまさかの大赤字に転落。ホンダ、日産など自動車メーカーは未曾有の不況にたたされ、派遣社員の首切りで大きな社会問題に発展している。アメリカは、またまた保護貿易に向かうだろう。しかし、日本には「チェンジ」、「イエス、ウイキャン」を熱く語れる政治家がいない。安穏とした国会運営、世界の「KY」にならぬ よう祈らずにはいられない。


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今月の課題