夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円
今月の課題 「 危機管理の大切さ 」  編集主幹 松原 清

 新型インフルエンザ大流行の危機が5月末をもって去りつつある。ほっとする反面 、京阪神への出張禁止、修学旅行の取りやめ、美術館などの公的施設の一時閉鎖、また、異常とも思えるマスク騒動、これらは一体なんだったのだろうと思う。

 私が6日間の日程で東京を訪れたのが5月16日、その日は某書道会の祝賀会があり、会場に出かけたのだが、神戸から来たということで、ジョークとはいえ、まるで感染者扱いをする人達が少なからずいた。一番感染者の多いアメリカでは、弱毒性と判明した後は街ゆく人々はマスクも殆どしていなく、季節性インフルエンザとしての対策がとられようとしていたのだが、日本の対応はまだ海外からの水際防止対策で終始していた時である。政府はかつてのサーズ(鳥インフルエンザ)クラスの強毒性の対策行動計画のマニュアルに基づいて今回の対応を実施してしまった。国際便の飛行機の中で、細菌兵器に攻撃されたような防護服に身を包んだ検疫官が機内検疫をしている姿を映し出す。それを繰り返し繰り返しテレビのニュース映像で流して、まるで今回のインフルエンザが「死に至る感染病」であるかのようなイメージを国内に広げてしまったことが異常反応の起爆剤となったと思われる。そもそも潜伏期間のある感染病に対して水際で防げると考えること自体大きな抜け穴があると思うべきで、本当に「確実に死に至る感染病」が海外で発生した時は、一時的に海外との海と空の相互乗り入れをストップするくらいの大胆な措置を取らなければ意味はない。

治療すれば治ると判っているものなら、逆に国内対策を充実させ、パニックにならないように「必ず治るからという前置きを言って、感染させない、また感染しないような日常の注意を示唆し喚起する」ことが大切であろう。「過去のどの新型インフルエンザでも、出現して1〜2年以内には25〜50%、数年以内にはほぼすべての国民が感染し、以後は通 常の季節性インフルエンザになって行きます」という日本感染症学会の報告が5月末の騒動のなか報告されたが、これは弱毒性のもので、鳥インフルエンザのような強毒性は有効なワクチンが開発されないかぎり、病原の根絶と罹患者の完全隔離は必要と思われる。幸いなことに日本では鳥インフルエンザに罹患した人がいない。もし、罹患者が出た場合、日本政府は対応策を持っているのだろうか、はなはだ心もとない。   私が6日間の取材から神戸に帰った5月21日、新幹線から在来線に乗り換えたとき、パニックの真っ最中で、実に乗客の90%の人がマスクをしていた。それらの人がマスクをしていない人を敬遠しているのが手に取るように感じられる。が、逆にマスクをしていない人が守られているような変な気分になった。

 月末、感染が下火になり、美術館も再開した。展覧会予定の団体もほっとして胸をなで下ろしている。全美主催の7月の「美を継ぐ者たち」も無事に開催できる見通 しがついた。一安心だ。


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