夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「東日本大震災」  編集主幹 松原 清

 このたびの東日本大震災により、被害を受けられました皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。受けられたご心労の大きさを思うといたたまれない気持ちで一杯になります。亡くなられた方々のご冥福を御祈り申し上げますとともに、一日も早い復旧がなされることを念じてやみません。


  それにしてもこれだけの大災害にみまわれると、あの時点で誰が想像したであろうか。局地的な断層地震でない、広範囲なプレート変動によるM9.0という前代未聞の大規模地震の巨大エネルギー、その時私は神戸から新幹線で品川駅で下車(2時40分)、取材で池袋に行くために在来線ホームに向かっている正にその時に、強烈な揺れに遭遇したのである。長時間に及ぶ大きな横揺れ、てっきり関東が大地震に襲われた、と思ったのは私だけではあるまい。まさか、500キロも先の東北沖が震源であったとは誰も思わない。その時点でJRは即全面ストップ、見動き取れない中、品川駅に備え付けのテレビのニュース速報で最大の被災地が東北であることを知り、二次災害の大津波の映像を見たのである。バリ島を襲った津波の再現が目の前にあった。しかし、これはまだ大災害の序章に過ぎなかったと、政府官邸を含めた日本の多くの人達の思うところとなったのである。


 私もその中のひとりで、テレビに映ったニュースがすべてで、絶大な被害は想定出来たが、余震もそのうちに収束するだろうとの甘い考えで、一種の東京取材途中難民に陥っていた。結局、上野のホテルに辿り着いたのは、地震発生9時間後の11時半であった。

 

 その夜、ずっとテレビニュースに見入っていたが、映像で送られてくる情報は断片的で、あまりに被害範囲が大きくて全貌が全く見えないということが分かった。一番の気掛かりであったのは、テレビで即流れた福島原発の津波被害による冷却水ポンプ事故であった。予備電源までアウトで水素爆発、これは本当にヤバイと正直ぞっとした。原発一基一兆円と俗に言われており、東電と政府は温存の方向で走り出してしまった為、事の重大さを軽視してしまった感がある。事故当初にアメリカから「廃炉」を覚悟するなら方法がある、との援助を官邸が断ったと言う。この判断ミスは途方もなく重い。政府の対応は後手後手となっている。今こそ大胆で思い切った指導力が求められている時なのである。子供手当て、高速料金無料化、各公共事業など基幹的予算以外を全部復興予算に当ててでも、この未曾有の危機を乗り越えなければならない。そして、私達は何をなすべきか。義援金、ボランティアも非常に大切だが、一過性に終わらないようにしなければなるまい。


 自粛も時に必要だが、日本経済が逼塞すれば支援、義援さえ出来なくなる。被災者へのそうした気持ちを忘れることなく、粛々と自分自身の仕事をまっとうする以外ない。美術界はこの危機に何が出来るのか、改めて大きな命題をつきつけられている。


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