夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「18年振りの北欧X」  編集主幹 松原 清

 さて、当面の目的を果たした私たちは遅い昼食の後、イプセン美術館とヴィーゲラン石彫公園に向かう。前回見逃した所でもある。広大な公園の中心部に進む手前の50m程の橋の欄干両脇に、様々なポーズの石彫が約30体。その中に「シンナターゲン(怒りんぼう)」と呼ばれて市民の人気者の子供の像がある。確かに片足を挙げてじだんだを踏む仕草が何ともいえない。一度この像の足が切り取られ持ち去られた事件(後日発見され戻った)があったと聞いたが、なるほど持ち帰りたくなる作品だ。大きな噴水の周りにも噴水口を支える土台にも人体の石彫が。モノリッテンの塔を中心に650体以上の石彫が林立する様はまさに圧巻であった。


 しかし、このあたりから足に嫌な予兆が起こりだした。休んで水でもたっぷり飲めば良かったのだが、北欧到着以降食事の飲み物はビールばかり。先程の大通りテラスでの昼食も、アラブ風のチリ辛料理に大ジョッキを飲んでしまった。日本では控えてもっぱら焼酎党になっていたのだが、プリン体を完璧に採りすぎてしまったようだ。最悪なことに用意していた薬をスーツケースに入れたまま、中島氏の家に預けてしまったことが判明。ホテルに帰ったころには予兆は現実となり、右足を引きずるようになってしまっていた。


 また、気になる問題が常に心の中にあった。父の手術である。何かあれば旅行をその時点で切り上げ、即帰国する。その時が明日に迫っていた。公園の公衆電話で日本に連絡を入れたが予定通りという返事。足の痛みもその応報かななんて思ってしまった。

 

 翌朝、そんな思いを抱きながらオスロからベルゲン特別急行に乗る。みんなゆったりとして車窓の景色を堪能している。妻もスケッチブックをこっそり広げて3席離れた一人のおじいさんを描き出した。既に日本での手術が始まっている頃、停車駅で公衆電話を探すが、なかなか見つからない。見つけたと思ったら、すでに誰かが話している。そして停車時間はあっという間に過ぎる。結局、日本に連絡がついたのがベルゲン到着後。日本は真夜中の2時半、「うまくいった。」の声にホッと全身の力が抜けたが、足の痛みが現実に引き戻す。

 雨模様ということもあり、フィヨルド見学の小旅行は取りやめベルゲン市内のみの散策に切り替えるも痛みはピーク。町の薬局で痛み止めを求めてどうにか紛らす他なかった。そんな状態ではあったが、北欧の自然と街の自由で明るい雰囲気は感じることが出来た。

 後、ストックホルムを巡り、王宮の衛兵の交替と国立美術館に感動し、コペンハーゲンに戻ったが、予定していた美術館もデパートもすべて閉館。ちょうどデンマークの国民休日に遭遇したのである。残念だったが、それでも、私たちは世界最初の大型遊園地「チボリ」に時を過ごし、世界で五指に入るというバーにも潜り込み、日本では経験できない白夜の街の雰囲気を心ゆくまで楽しんだ。読者の方々も是非一度北欧を訪れて頂きたいと思う。

(完)


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