夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「原発事故」  編集主幹 松原 清

 東日本大震災から早1年が過ぎる。死者1万5千645人、行方不明者4千984人もの犠牲者を出した大自然の脅威、前代未聞の広域地震と津波被害の恐ろしさを改めて日本国民が認識したが、二次災害として発生した福島第一原子力発電所の水素爆発、メルトダウンは日本ばかりか世界中を震撼せしめるものであった。海岸横に原子力発電所を造るのは、世界でもあまり例はなく、殆どが地下水を冷却として用いて、内陸部に建設されている。日本で海岸横にこぞって建設される理由は、復水器の冷却水の取水設備として、また建設資材の運び入れ、燃料の搬入に船を使えるため一番経済的だからだである。それで小規模な港と防波堤が建設された訳だが、その時一応は津波(想定6.5メートル)被害の防止を見込んだ防波堤の建設がなされていたが、これを越える津波に襲われた場合の想定がなされていなかった。それが問題なのである。あの時、冷却水ポンプと電源さえ確保されていれば少なくともこのような事態にならなかったと思われる。たとえば、発電機と覆水ポンプを気密設備を完備して建屋の地下に設置する(テロ対策にもなる)か、少なくとも建屋横の高地に発電設備を造っておけば最悪の事態は避けられたのではないだろうか。原子力に関していえば、想定外だったというのは通用しないのである。まったく後の祭りだが、放射能汚染で住む土地を追われた人々の今後を思うと、遅々として進まない今の政府の対応、対策が腹立たしいかぎりである。

 

 兎も角、現在日本にある原発は福島の二の舞いになる可能性があるといえる。ストレスチェックで54基の全数が1年以内に止まる事態になっているが、廃止論も広まってきており、どのように国として対処していくか、私たちも自分自身のこととして見守っていかなければならない。
 放射能は見えない。安易な妥協をすれば更に取り返しのつかないことになる。というのも、先日その燃料となるウラン採掘現場の実情をテレビで見た。ウラン鉱石から精練した黄色い粉を圧縮して固めたものを「イエローケーキ」と呼ぶのだそうだが、アフリカの鉱山では放射能のレクチャーも受けないで坑夫が働き、オーストラリアではアボリジニの聖地が採掘場となり、一帯の放射能汚染が問題視されている。採掘のときに一緒に出る土壌が実は高レベルの放射能に汚染されていて、山積みとなって原発事故相当のレベルにあるというのである。中国、カナダ、ロシアなども恐らく同じだろう。放射能の垂れ流し状態でウランが採掘され、どこかの国では再処理されない使用済み燃料が密かに捨てられる。原発と原子爆弾、開けられたパンドラの箱の塞ぎようはないのだろうか。
 さて、2年間の改修工事で休館されていた東京都美術館が4月1日からリニューアルオープンとなる。聞くところによると随分明るい会場となるようだが、各団体の復帰展にかける意気込みも大きい。暗い話題の多い中、その大々的なオープンが楽しみである。


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