夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「韓国の美術事情」  編集主幹 松原 清

 3月に美評でのソウル取材を実施した。15年程前にも出かけ、磁器の歴史を学んだ。今回は韓国の現代美術や街の画廊での展示事情を何とか探れないかという目的を持っての美評の旅としたかったのだが、ソウル市内を散策すれば何か判るだろうと日本の銀座あたりを歩く感覚だったのはやはり失敗だった。
 しかし、現在韓国の財閥で電子機器で世界的シェアを占めるサムスンの初代会長の美術コレクションを展示するサムスン美術館を訪問の主目的としたのはある意味正解であった。
 この美術館はサムスングループの名前をとって「三星美術館」とも呼ばれるが、正式にはサムスン美術館リウムという。初代会長の李秉 氏の名字「Lee」と美術館を意味する語尾「-um」を組み合わせたものらしい。ソウル中心街から少し離れるが、革製品で有名な梨泰院(イテウォン)の近くで、地下鉄漢江鎮(ハンガンジン)駅から徒歩6分の小高い丘に、2004年10月にオープンしたとのこと。エントランスは板敷きで、私達が訪問した時は屋外彫刻に昨年死去した米彫刻家L・ブルジョワ氏の巨大蜘蛛のオブジェ「ママン」3作品が並んでいた。敷地面積1200坪、延べ4500坪と広く、世界的評価の高いスイス人の建築家、マリオ・ボタが韓国の陶磁器にヒントを得て設計したというが、4階から順に下階に導くらせん階段は正に粉青瓷の二重透し彫りをイメージしており、センスと機能を兼ね備えていた。

 

 展示棟は4階建ての古美術館と2階建ての現代美術館とふたつあり、古美術館の4階は青磁、3階は粉青沙・白磁、2階は古書画、そして1階は仏教美術・金属工芸で、なんと個人美術館で国宝36点、宝物96点を収蔵する。現代美術館の2階は1910年以降の韓国現代美術を代表する作品、1階は1950年以降のモダンアート中心の海外近現代美術、合わせて約70点程が展示されている。地下ロビー階は現代アートの特別展の開催場となっている。入場料1万ウォン、特筆は2千ウォンで借りられる世界初のPDAによるデジタルガイド。世界6カ国?の音声ガイドで、作家情報、お気に入り作品の登録も出きる。流石にサムスンというところ。不勉強で現代美術作家名と作品が一致しない場合が多かったが、意外と韓国の現代美術進出は早く、世界で活躍する人たちに国、企業が補助をしているということが感じられた。
ソウル市内のギャラリーは仁寺洞(インサドン)に多いと聞いたので散策、骨董店がやはり目立ったが、古寺の後地を利用した5つのギャラリーの集合場があった。借り賃は20万円程で物価的には高額である。その近くでコンテンポラリーの個展を開催していたギャラリーも見つけた。50号程の作品が80万円とのことであった。前回行った明洞は飲食とコスメの店舗に変身しており、中でもカタツムリエキスの化粧品が所狭しと並んでいる。これも国策だろうか。電子部品、造船業他、世界に打って出る韓国のエネルギーの凄さを改めて感じた旅となった。


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今月の課題