夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「諸々の秋」  編集主幹 松原 清

 日中国交正常化40周年を迎える中、日中の関係がこれまでで最悪の事態を迎えている。周知のとおり尖閣列島の日本政府の国有化に伴う領土問題が一挙に表面化して、中国での大規模デモ、日本企業の打ち壊し、日本製品の不買運動にまでヒートアップして、政治の枠を越え、文化交流までも多大な影響が出てきている。本当に何とかして欲しいが、こうした事態の打開に向けて、肝心の政治が全く機能していない。政権闘争に明け暮れ、東日本大震災・原発事故の対処、復旧は遅々として進まず、派閥保持と個人的政治家生命の維持にしか動いていない。本当は水面下でちゃんと打開交渉が行われていると信じたいが、世界に向けてオフシャルに日本の立場を発信することさえない今の外交政策に大きな疑問を感じるのは筆者だけではあるまい。

 筆者の知る一例では、京都で開催中であった日中美術交流合同展に、中国政府から中国側の作品を撤去するよう指示があったが、「双方に純然とした契約が交わされた催しであり、ましてや開催中の撤去は断固受け入れられない。」と中国側代表に申し入れ、信義の問題として理解が得られ、開催中撤去という最悪の事態は免れたと聞く。これも、過去7回の開催で培ってきた日中作家の信頼関係があったからこそと思われる。しかし、その後予定していた中国作品の巡回展示の催しは、正に直前で中止となってしまった。

 

また、今月号13面に紹介している「呉昌碩・王一亭」展の日中友好会館での開催も、成り行きでは中止の事態も考えられる。9月半ば以降の中国関連の文化事業で、いったいどれ程が行事中止に至ったのか、文化庁としても把握する必要があるだろう。中国問題と平行して韓国との竹島問題も根が深い。政治と経済と文化、腹を割った外交と一般の人的交流を豊かにして、同じアジア人として理解しあえる、見せかけではない本当の絆を創りあげなければならないと思う。政治がらみの話題になると、ついテンションが上がったり、落胆したりで精神的に鬱々して良くない。しかし、現状としては次期選挙に期待するしかない。

 さて、10月の声を聞き、朝夕がようやく涼しくなった。暑い夏をどうにか乗り切ったという思いも束の間、台風の季節に入った。時の移ろいをあまり感受してこなかった今年の自分に思い至って、今からでもいいから自然の中に身を置きたいと考えていたが、うろこ雲が流れる秋空の爽快さに誘われ、先日ふらっと妻と二人で加古川市郊外に出かけた。家から車で20分ほど走った山裾に、果樹園があり、ぶどう狩りをしたことを思い出したからである。まだ子供も小さく、妻の母が加古川の新居を初めて訪れた25年前のこと。子供らとブドウの種の飛ばしっこをしたことが鮮明に記憶の中にあったが、なんと四半世紀もの間こうした時を持っていなかったことを改めて思った。道路の脇に、「ぶどう狩り」、「くり拾い」の幟。緑の樹々の中での初めての「くり拾い」を堪能した。今度は孫を連れてこよう!


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今月の課題