夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「絶対あきらめない!」  編集主幹 松原 清

 あっという間に今年も3月に入った。月一の締め切りがある仕事をしていると、順調な時はいいが、体調が崩れたりした時は、気持ちが追い込まれてよけいに原稿や編集作業がはかどらなくなってしまう。今月もそんな当たり月となってしまった。兎に角この2月は寒かった。うっかりして風邪をひいてしまい、そこから仕事のリズムが狂ってしまったようだ。義理チョコ2個程もらって、あぁ今日がバレンタインだったんだと思ったり、最近では3月3日のひな祭りの日さえ頭から記憶が飛んでいて、過ぎて初めて知る始末であった。
 納期のある仕事はけっこうキツイ。しかし、終わった時の解放感もその都度味わうことが出来る。悩んで悩んでそれでも頑張って期日内に仕上げるからこそ生まれる解放感である。
 私は、この全美の仕事を引き受ける前、14年間ほど高圧高温隔のバルブメーカーに勤めていた。殆どの製品が受注生産であり、その仕様を満足する承認図を客先に提出し、コンセンサスを得て製作図を作り製造部に送る設計の仕事であった。受注が確定すると、納期は絶対であった。製品の納入が遅れるとプラント工事に支障がでることは明白であるし、その製品が発電所の定期検査での取り換え品や主要部の修理品の場合は、遅れれば1個のバルブで発電所が止まる。稼働しないのである。それが原子力発電所の場合、1日1億の損害とよく言われたものである。だから、現場では徹夜残業もしばしば。この頃に「絶対あきらめない」ということを学んだからこそ、まがりなりにも1回の休刊も出さずに全美の新聞を28年間発刊することができたことに繋がっているのかもしれない。感謝である。

 

 人間は、元来楽な方向に向く。ちょっと気を抜くとそうなりがちで、私なぞその典型であろう。でも「夢」があるから続けていける。美術が好きで、ずっと美の世界にたずさわっていたい。その中に、自分の生きた証を残しておきたい。それが私の「夢」であり、目標でもある。確かなコンセプトをもって発刊サイクルを決め直すのは仕方ないが、頑張らずに1度休刊の気楽さを覚えてしまったら、月発刊、四季発刊、そして、ついに不定期発刊となってしまう。そうならない為にも「絶対あきらめない」精神は持ち続けたいと思う。
 美術界においてもそれは同じであると思いたい。人夫々思いのスタンスは異なるかもしれないが、真摯に人知れず己の「夢」を実現すべく未知の美に向かって歩み続ける人こそ真の作家と言えるのではあるまいか。作家に真の納期はないが、展覧会の出品や個展の開催は「夢」へのステップであり、自己実現のステージでもある。だから自分を偽らないでほしい。楽に逃げてはいないか!同じように見えるが、確実に次のステップの為の確認、バリエーションだと自分に向かって言える作品づくりを目指して欲しい。自己模倣は自己の「夢」を放棄し、ファンの「夢」を醒まさせる。「作品とは何か」、「絶対あきらめない」心が扉を開く。 


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今月の課題