夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「ホーチミン市訪問記(1)」  編集主幹 松原 清

 昨年末、洋画家のF氏からベトナム・ホーチミンに行かないかとの突然の申し出を受けた。F氏とはこれまで氏の所属する団体の合評会で二度ほど言葉をかわしただけのお付き合いだったので正直驚いたが、年明けて5月くらいに4〜5日行きたいとのことであった。
 後に分かったことだが、F氏は大阪で産業機械製作/組立や板金製缶加工の会社を創業し、現在は会長としてあるが、ホーチミンから研修生を受け入れ、日本の技術を学んで巣立った研修生がすでに10数人故郷で活躍しているという。そんな関係で13年来何度もホーチミンへ出かけていて、今は彼らを中心とした工場の建設に尽力しており、現在も研修制度を続けている。
 私は当初、F氏が企画した写生ツアーに同行する仕事であろうと勝手に想像していたのだが、4月になり、いよいよホーチミン行きの詳細が明らかになって戸惑った。「研修生が、結婚するので式に出て欲しいと招待を受けたのです。日本語を覚え、技術を一から勉強した彼らは私の子供みたいなものです。うれしいことです。建設中の工場のこともあり、私はそれがメインです。しかし、私自身美術に関係しているので、ちょっとした疑問をもっていました。ホーチミンは現万都市で経済発展が著しいのに美術館がひとつもない。美術大学もちゃんとあるし、画廊もあって専門家のグループも存在するが、市には何百という額縁屋さんがあり、そこでコピーの絵が描かれ大きな市場をもっている。そこのところを是非見て欲しい。行くのは二人だけです。」との言葉に、私は何をしたらいいのか?という素朴な不安を抱いたのは否めないが、先ず美術館が一つもないということに興味が湧いたのも事実である。

 

私の海外旅行は殆どが美術館巡りが中心で、美術環境視察のための表敬訪問は未知の経験であったが、こんな機会もいいかもしれないと覚悟をきめた。
 後に、旅程表が送られてきたが、これが意外とタイト。市内観光と絵画店(額縁屋)巡り、芸術大学訪問(教授・学生との交流)、市の芸術グループとの交流会、画廊、画家アトリエ訪問と正味3日間の中、盛り沢山。いずれも通訳付きの便宜をはかってくれた(当然ベトナム語は全くしゃべれない)が、出発間際まで取材に追われ、予備勉強も殆ど出来ない(簡単な挨拶の言葉も覚えていない)まま、5月18日午前10時30分発の関空〜ホーチミン直行便に乗り込んだ。行きは約5時間半のフライトである。
 ホーチミン・タンソンニャット国際空港は最近リニューアルされたらしく、比較的きれいである。また、こじんまりとした規模でわかりやすく、市内まで8キロとアクセスも便利である。空港で当座の両替をしたが1万円が約200万ドン。ここ%ドンが値上がりしているが、50万ドンが最高札で何種類かに崩すとものすごい札数になる。以前のリラを思いだした程だ。市内へ送迎車で向うが、ものすごいバイクの数である。恐らく台湾以上。縦横無尽で、とにかく怖い。(続く)


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