夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「ホーチミン市訪問記(2)」  編集主幹 松原 清

 ホーチミン滞在中のホテルは、ロッテレジェンド・ホテル サイゴン。サイゴン川沿いにある五つ星ホテルで、こんな高級ホテルへの宿泊は何年振りだろう!ヨーロッパの取材旅行では殆ど三つ星、たまに贅沢して四つ星止まり。御招待に感謝である。しかしこのホテル、日本人が当初オーナーであったが、つい最近ロッテに買収されたとか。韓国の進出の勢いが窺い知れて、ベトナムでの各国企業間の熾烈さが、このことからも感じられる。
 2時半過ぎのホーチミンは気温が36 度、湿度も相当あったが、ホテル周辺を散策。道を挟んで向かい側がサイゴン川。渡りたいと思うが渡れない。信号まで150メートルはある。まわりを見渡すと、現地の人が50メートル以上続くバイクと車の間を何事もないような顏で横断している。空港からの送迎バスの中で聞いていた「ぜったい急に駆け出さなうが渡れない。信号まで150メートルはある。まわりを見渡すと、現地の人が50メートル以上続くバイクと車の間を何事もないような顏で横断している。空港からの送迎バスの中で聞いていた「ぜったい急に駆け出さないで!おなじスピードでゆっくり歩いて渡ると、バイク、車がよけていきます」というアドバイスをもとに、実践してみた。歩き出すタイミングが難しいが、どうにか横断に成功してホット一息。向かい側では川沿いに白いアオザイ姿の数人のモデルが撮影会の最中で、ポーズをとっている。昼のスコールですっきりとした空気のサイゴン川の景色を背景に、私も内緒でカメラのシャッターを切った。

 

 ホーチミン市芸術大学はサイゴン駅から北に5キロほどの郊外、ビンタイ区にあり、創立は1913年と100年の歴史を持つ、市で唯一の公立校で、油絵、工芸、彫刻、とグラフィックの4つの科で約600名の学生が学んでいる。10時からの約束ということで、F氏が表敬訪問のアポをとってくれていたが、私自身訪問の目的が純然としないまま来てしまった思いがあり、ミン事務長に設定していただいた教授2名と学生8名ほどの懇親会にどのような挨拶をして、どのような質問をするか、前日まで考えが纏まっていなかったが、「前日、市内を巡って来ましたが、町のいたるところにギャラリーと記された額縁屋さんがありました。3つの通りだけで100軒以上。市全体では何百軒もあるようです。それらのお店には模写、コピーの職人さんがいて注文の絵を描いていました。何百件の額縁屋さんが潰れず商売が成り立っていることは、とりもなおさず絵の需要があるからと思いました。日本にもかつてそうした高度成長時代があって、コピーやパン画が売れ、その後本物の絵を求める動きが顕著になり、大学に美術専攻の学生も増え、団体展が活性化して、美術館、ギャラリーが全国に広がりました。ベトナムは正にそのような時期にさしかかっているのでは? 今正に専門に芸術を学ばれたあなた方が求められるようになるのでは?」と口火を切った。それに対して「額縁のギャラリーはアートではない。本校の教授や、ここで学んだ学生は香港、シンガポール、マレーシア、ヨーロッパで発表活動を行って実績をあげている。」との返答がかえってきた。なんだか論点が噛みあわない。(続く)


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