夢遥  ゆめはるか

(全日本美術『今月の課題』1996〜2005年を単行本に)
全日本美術編集主幹 松原清 著  A5版 272頁 定価2000円

今月の課題 「ホーチミン市訪問記(3)」  編集主幹 松原 清

 どうやら、芸術の専門家としての目標.画家や彫刻家となる目的が日本とは違うらしい、ということが朧げながら判ってきた。「ホーチミン市には公立の現代美術館がないと聞いていますが、建設の申請運動はやられているのか?」という質問にも、積極的に運動はしていない雰囲気であった。実はこの懇談会が始まる前、大学の購買所で日本ーベトナムの美術交流や個展をプロデュースして名古屋にも事務所を持っているエヌ・アイ・シー・ディー(株)のグェン氏と偶然知りあい、「美術館建設運動をしているが、思うように進まない」との話しを窺っていたが、やはり、経済が最優先なのであろう。文化的事業が並行して実施できない環境下、芸術家は海外で有名になることが国の文化度を上げ、作家個人も裕福にするという意識を持っており、民衆の芸術文化度の向上は思いの外にある。ということがやりとりの中で感じられるようになった。だから、一般市民の趣味としての展覧会や個展、ひいては世界の美術館の名品を地元で見てみたいという思いは皆無に等しく(底にあるかも知れないが、自ら旗を振ってやらない)、その結果が、完全に専門家とコピーの職人の二極化をつくりだしているのだ。同じ社会主義の国でも、中国やロシアとも違う芸術事情があるようだ。
 それにしても、通訳さんが事務・工業系の人で、絵画の専門的用語を判っていないため話しがスムーズに通らないのも困った。私の話す一言を相手に伝えるのに10倍くらい長く話し、相手が応えると、勝手に話し込んでしまうのだ。

 

しばらくして、「あなたはどういう目的をもって私達の学校を訪問したのか?展覧会を日本で企画してくれるのか、それとも日本の芸術大学留学に手をかしてくれるのか?」という質問がきた。あぁ、やっぱりそこに来た!と思う一方、お互いの国の美術事情だけの話しの交換だけではないだろう、と思う相手側の思惑もある。表敬訪問というだけじゃ受けいれてもらえないだろうと一応覚悟はしていたのだが、これには正直困った。「先ずベトナムの美術事情を知りたいための訪問で、展覧会の企画などは今考えていない。しかし、留学を本気に考えている学生がいるなら、手続きなど手伝える範囲でならやりましよう。だけど、日本での生活の補償は私には無理です。」としか言いようがなかったのである。この話しあいの後、ひとりの女子学生(3年生・油絵科)が日本の芸術大学留学に大きい興味を示して、通訳さんを通して紹介されたが、まだ、正式に留学云々の連絡は来ていない。
 この表敬訪問の後、街の画廊(画家専門)2箇所を巡った。こうした専門の画廊は数少ない。一つはベトナム人の経営しているTUDO画廊、あえて訳せば「自由画廊」か。そこではハノイとホーチミンの中間の地に住む作家の個展が開催されていて、ドーミエのような風刺画が並んでいた。10号程の連作15枚に注目して通訳さんを通じて価格を尋ねてみた。これが何と500万円だという。(続く)


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