ななこのArt interview  〜作家の小宇宙を訪ねる〜 (3)

榎 倉 香 邨

『手指を動かさない、美しい文字を繰り返し書く根気を要求されなければ脳がダメになる。』

 榎倉香邨先生は現在82歳。香瓔会会長、読売書法会常任総務としてかな書道の継承・発展に尽力しておられる。  
  香邨先生は復員後教職に就く時、学校側から体育や書道の受け持ちを提示されたのがきっかけで書の世界に足を踏み入れた。27歳の時であった。「それまで書の世界との関わりはありませんでしたし、まして漢字、かな、そして篆刻の専門の先生がいらっしゃることなど、ただびっくりすることばかりでした。」また香邨先生は学生時代は画家を志していたが書道をすると決めた時、画材全てを絵の先生に譲り渡したというからその決意の程が伺える。だが絵に対する深い想いは作品の構想にも関わっているようだ。「一字でも存在感のある漢字と違ってかなは連綿して行となり、行ごとが寄り合って集団になってこそ美しさになるのです。ですからかなはそれぞれが求めあう不完全さが大切です。大和絵から発した線の美の日本画もある意味では空間の在り方を大切にする点でかな書と通 じるところがありますね。それとかなは音の世界だともいえます。小さな音からだんだん大きく、いわゆる音がリズムにのって流れることです。それは書く人の性格や健康な息づかいだと思うのです。」



先生の部屋に飾られていた 岸田夏子さんの絵

 かな書家には古筆の勉強が必要だが、香邨先生も自身のかな芸術確立の為いろいろな名筆を収集されているとお聞きして、最近収集されたという藤原定家の記録切れを見せて頂いた。「道長や行成の時代はまろやかで日本調というか静かな作品が多いのですが、西行が出る頃には道長らの時代に憧れながらも、動的な作品が多くなってきます。この流れが今の時代とそっくりでおもしろいと思います。やがて定家が注目される時代がくるかもしれません。」  
  また、書の将来性について最近のパソコン等の話題がとりあげられた。「書くことは心の発達を支える」と医学的に提起されている魚住卿山氏のことを話され、最近のきれやすい若者について「ただスイッチを押せばいいという中で生活して手指を動かさない、美しい文字を繰り返し書く根気を要求されなければ脳がダメになる。医学と結びつくことで書の重要度がこの先変わっていくと思います。」と力説された。危機感を持って行動を起こすこの力こそが現代には必要とされているのだと感じた。  
  かな書についてのお話を充分していただいて、ふと書斎の部屋の隅に目を移すと一枚の桜の油絵を見つけた。その視線を先生が察し「ああ、あれは劉生のお孫さんの岸田夏子さんの絵ですよ。三越の会場で見た『さくら展』の中の一点で、その印象が昨年の日展の作品『櫻ちる』を生んだのです。全美さんには畑林君の鎮魂とつなげて評してもらったが、それが真相です。」と語られた。書作品には作品とする為の感動が必要なのだと改めて思った。

 



藤原定家の記録切れ