ななこのArt interview  〜作家の小宇宙を訪ねる〜 (10)

庄 司 栄 吉

『何より私には今絵が描けることが一番の幸せなんです』

 洋画家の庄司栄吉先生を訪ねた。庄司先生は大正6年に大阪に生まれた。幼い頃から絵が好きで、大阪外国語学校フランス語部に通 いながら赤松塾で絵を学び、その後東京美術学校に入学、寺内萬治郎に師事した。光風会、日展を発表の場として人物画を中心とした作品を数多く手がけ、平成10年に勲四等(瑞宝章)、12年には恩賜賞・日本芸術院賞を受賞、同年日本芸術院会員に就任された。  
  昨年4月に刊行された『セレベス追想 庄司栄吉スケッチ集』のことからお聞きした。「徴兵検査の時、偉い左官級の検査官が『絵はものになりそうなんだな、しっかりやれ』と言ってくれたことで第二乙(第二補充)となり、絵の勉強を続けることができました。そして卒業後にセレベスへ海軍教員として行ったのです。セレベスでは戦争中にも関わらず心と心の繋がりをもつことができました。忘れられない経験です。」戦後1985年、セレベスの教え子達から同窓会の招待を受け感激。この時は残念ながら再会は叶わなかったが、当時の思い出を一冊の本にしようという思いが昨年結実したのだと言う。今年二月には当時の教え子達と再会を果 たすことができたとお聞きし、その強い信頼関係には感動させられた。






恩賜賞、日本芸術院賞受賞作品「聴 音」

 戦後はなかなか絵も描けない程の混乱期であったという。しかし庄司先生は着実に自身の世界観を確立し、絵を描き続けてこられた。 「寺内先生が亡くなる前に私に言ってくださった言葉があった。『ゆっくりやれよ』と言われたその一言は今でもずっと心の中に残っています。」と語られたことが印象的であった。  
  庄司先生といえば『音楽家』という程、昭和40年代からシリーズとして続けられているが、事実音楽家の家族である。「ずっと音楽が好きだということもあるし、フォルムとしての面 白さがありますから。動きがあるものが好きなんです。でも赤松先生や寺内先生が『生き生きした、とにかく自然の中の不動のものをつかめ』とよく言っておられて、何を描くかは問題じゃない、それをつかむことが大切なのではないかと思っています。」と絵の真髄について力強く語られた。  
  今後は肖像を描いていきたいという庄司先生。その絵に対する真っ直ぐな意欲を持ち続けれる健康の秘訣についてお聞きすると「規則的な生活をしているだけですよ。早寝早起きを基本に7時くらいに起きて9時には寝ます。それと散歩は毎日欠かさず30〜40分します。そうするとご飯もおいしくなるしね。あと水泳もします。水の中を歩くことから初めて、クロールして帰ってくるんですが、スカッとして気持ちいいんですよね。」と教えて頂いた。





東京美術学校時代に模写した  
コレッジオ「聖キャサリンの結婚

 最後に「この一枚のキャンバスで自分を全部だせたらと思うけど、いつも巧くいかなくてわからなくなる。でも絵には偶然性っていうものがあって、あるときフっと分かる時がある。理屈じゃないんですねえ。そういう意味では絵は本当に好きだからこそ描けるのでしょう。何より私には今絵が描けることが一番の幸せなんです。」庄司先生の絵に対する深い思いを垣間見た言葉であった。