第44回日展より


文化功労者

中路 融人

 

 山口華楊に師事し、日展一筋に長年研鑽を積み、独自の日本画の世界を確立してきた。その成果が高く評価され、平成24年度の第65回文化功労者に推戴された。
 中路融人といえば、湖北であるが、「琵琶湖周辺に拡がる田園風景に魅せられて、半世紀以上にわたって美しい野山、川辺、湖畔などをライフワークとして取材し制作してきた。」と、ご自身語られている。
 近年の日展作品をみると、昨年の「よう光」は、湖北に沈む夕照に取材し、浮き島の木立の影と波間に揺れる水面に映る太陽を描き、その前年の「雪の朝」は繰り返し登場する伊吹山を木立の間から望む縦構図で描き、冬の凛とした厳しさの中に詩情を漂わせた。そして又、少し遡った「冬の日」は、琵琶湖畔に広がる葦原とその中に立つ雑木という素朴なモティーフに臨場感と詩情感を演出し、「霧の中」では、霧の中にかすむ湖水の前景に葦を線描で配し、淡い色感にリズムを奏でる斬新な描写をみせている。
 こう見てくると、色彩的には殆どモノクロームであり、渋い味わいが基調にあることに気付く。もちろん時には紅葉や桜など彩色豊かな世界を描くこともあるが、それさえも賑い立つといった雰囲気よりも、もの静かでどこか寂とした趣がある。
 さて、今年は清水寺である。建物をモティーフにするのは稀であるが、しかしやはり中路融人の世界そのものといえる。というのも、清水寺の大屋根と舞台を中央に据えながら、前景に木立があり、霧の中であり、季は冬なのである。加えてモノクロームの水墨調である。謂わば融人調が凝縮されている。
 モノクロームの中に、冬の曇天の下、霧に纏いつくように画面全体に編在する微光を掬い上げ、御堂の水平に対し枯木の垂直という堅固な構成を霧でやわらげる効果をも案配している。従って甘からず固からずの均衡のとれた調和が図られている。
 「心に凍し みる雰囲気があり、周囲の空気と共にその美しさに感動を覚え」のコメントどおり、静かに心豊かに満ちてくる。(中野)

 

霧の清水寺    177×202cm