平成29年度日本藝術院賞受賞
〈心と技が一体となる〉その一瞬を求めて

土橋靖子

 

 平成29年度日本藝術院賞の第1部(美術)書部門に土橋靖子さんの受賞が決まった。受賞対象となった作品は、平成29年改組新第4回日展出品作品「かつしかの里」。前年の内閣総理大臣賞受賞作品、良寛の長歌「墨染」を挙げなかったところにも土橋さんの書に対する意識の深さと綾を感じる。2作品を比べるというのではない。次はもっと納得のいく作品を‥という作品に対する前向きの強い思いが常にあるからだ。
 「かつしかの里」は、ある意味大臣賞という呪縛から逃れ、リセットした気持ちで取り組んだ作で、技術(狙い)と自由な境地という相反した思いの間で生まれたという。最終行の「遊」の一字と、その3行前の「見」は、これまでなかった流れで、特に「遊」は横方向を統べる要の文字として君臨している。これからの土橋さんの求める創作書の方向を予兆させる作品であると思う。
 で、何故「かつしかの里」を紹介せず、今年の現代書道二十人展の出品作を挙げたか記したい。この「万葉三十首」は、和様の漢字の世界と仮名との同一線上の調和を狙ったもので、自身の和様の世界を探る作品として意図されたものであったからだ。弊紙に最大寸法でカラー紹介できるのは巻頭しかなく、院賞受賞のタイミングに巧くマッチングした。
 本作は、万葉集巻七の雑歌から三十首が選ばれている。そのうち二十一首は万葉集の原文で書き、残り九首は主に仮名的表現で書かれている。巻七の原文は表意文字と表音文字の混在が少なく、表意文字が主となり、直截的に和歌の意味が伝わりやすく、感興がより広がるという。使う漢字は王羲之や空海などの原寸漢字を軸にすることを意識して書している。それだけの技術があるからこそだが、この研究は新たな調和体のあり方、手紙などの書簡体の表現に影響を与え、より現代文に近く、且つ芸術性も兼ね備えることに繋がるのではなかろうか。土橋さんの2回目の個展の折り、現代文をかな様式で表現できないか、と尋ねたことがある。この新たな様式の構想に大いなる敬意を表し、今後の更なるご活躍を祈りたい。(松原)

 

 

 

 

第62回現代書道二十人展より  万葉三十首・詠雲  31×180×3