第40回記念日展より

文化勲章・日本芸術院会員

杉岡 華邨

「都方人」

                    「去年の秋 あひにしまにま けふみれば おもやめづらい 京師かた人」  

 第40回記念日展より、文化勲章・日本芸術院会員の杉岡華邨氏の「都方人」を紹介させていただく。
 氏は漢字を辻本史邑に学び、かなは尾上柴舟に師事し、奈良・東京間を夜行列車で往復したと聞くが、昭和25年に特別聴講、翌年に文部省内地研究員として京都大学で美学、王朝文学、中国文学史を学んでいる。その経験が今の自分の書に繋がっていると言われるとおり、王朝かなの研究から氏自身のかな構成美論「連綿であれ、散らしであれ、各行は1点の扇の要に収斂される」を確立したのである。今展の「都方人」の各行を下に辿れば、1行目の4倍長の位置に交わることが分かるだろう。 この歌は、大伴家持が越中守として地方に赴任していた時、都への使者が帰郷した宴席での和歌であるが、都の大君を思い、京の風景を懐かしみ、自らの境地を紡ぐ長歌一首「大君の 任のまにまに 執り持ちて 仕ふる國の 年の内の ・・・」に続く反歌二首のひとつ。反歌は長歌のテーマを絞ったものや追加の記述に用いられるが、京の香りを運んでくれた家持の爽やかな思いを連想した杉岡氏の余白空間が絶妙である。また、放ちの展開部「おもやめづらし」が1行目の重さを受け、全体のバランスを取りながら言葉に存在感をもたせたところは流石の感があり、都に京師(みやこ)を用いたのも王朝文化研究者の心憎い演出といえるだろう。     (松)