寺 坂 公 雄    
 一連のギリシャ・アクロポリスシリーズを中心に、『17才の自画像』(1950年)から新作超大作『八ヶ岳山麓萠える』『樹間秋色』まで代表作のアンソロジーと、郷里の瀬戸内風景や花など30余点による充実の個展であった。
 寺坂公雄といえば、掲出の『アクロポリスへの道』に代表されるように、ギリシャの遺跡や彫刻、それらをとりまく風景をモティフに、画面をいくつかのパートに仕切り、自由なイマジネーションによるオムニバス構成により、雄大にして悠久のロマンを語り、地中海の輝きと風を表現する作品群で良く知られている。その独自の優れた構成力と色彩配置によって、はるか時空の彼方の世界を今日に甦らせ、リアリティとファンタジーを生みだしている。
 今展に並んだ『黄色のテーブル』『カニのある静物』『室内』など1960年代の作品には若々しい活力と、試行錯誤する勇気と溌溂さが実に魅力的であることと共に、今日のオムニバス構成の萌芽が感じられ、そのこともまた興味深かった。
 そして何よりも刮目させられたのは、『八ヶ岳山麓萠える』と『樹間秋色』(共に120号F×2)である。八ヶ岳山麓にアトリエを構えて30余年、一瞬に変化する山の風景や風と光、匂いに惹かれ、親しく接している雑木林をモティフにしている。4メートル近い横長画面に展開する林景は、日本芸術院会に就任(2005年)後に新たな視点から取り組まれた新たな造形(そして構成)意識が、実に新鮮で瑞々しい。
 両者の作品ともに、画面いっぱいに白樺や赤松等々の雑木がスクリーンのように平面的に広がっている。林の中の杣道がわずかに西洋風な透視図的遠近(パースペクティブ)を導入しているだけである。にもかかわらず画面には豊かな奥行きが生まれている。それは東洋画にみられる空気遠近法を援用し、空間をしっかり存在させているからなのだ。日展、光風展初入選から半世紀余、今にして新たな創作意欲と真執さに改めて敬服する。(中野)

  日本芸術院会員就任記念 悠久の風と光  
  
■ 2月27日〜3月5日   ■ 日本橋三越本店 本館6階美術特選画廊
 


     「アクロポリスへの道」 130F