今月の課題 「ふたたびカラヴァッジョ」 編集主幹 松原 清
日本―イタリア国交樹立150周年を記念して、「カラヴァッジョ展」(3・1〜6・12)が国立西洋美術館で開催されている。
今展には11点のカラヴァッジョ作品と彼の画法に心酔した熱狂的な継承者(カラヴァッジェスキ=カラヴァッジョ派)の作品を合わせて51点が展示されている。カラヴァッジョ作品は移動不可能な教会の祭壇画を含めて60点あまりと云われる中、この11点という数は、日本では過去最大となる。24年前、筆者が偶然ローマで遭遇したカラヴァッジョ展(真筆30点以上)が恐らく世界最大の規模だと思うが、その時、100点以上と誤った記述をしている。これはカラヴァッジェスキの作品を含めての点数であった。この場で訂正しておきたい。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571〜1610)は、わずか38歳で熱病にたおれ亡くなっているが、その作品が与えた影響は絶大であった。彼は、フレスコ画による歴史画、神話画を排して油彩による静物画、風俗画を多く残しており、宗教画においても一切の非現実的な神秘的要素を排し、当時(17世紀前半)の服装で、当時の住居に人物を配して、明暗のコントラストを意図的に画面に与えることで自己の内面に真実と感じとられたリアリティを表現しようとした。いわば近代的宗教画の様式を創始した画家であり、17世紀のベラスケス、スルバラン、ラ・トゥール、レンブラントの画風の祖になったいって過言でない。
このカラヴァッジョの芸術観は、当時台頭してきたプロテスタンティズム(神との直接の結合を希求)の傾向と一致することから、当時ローマに集まった北方の画家(オランダ、ドイツ、フランス)によって持ち帰られ、各国のバロック美術の開花に決定的な影響を与えることになった訳である。
今回特に注目したカラヴァッジョ作品を挙げよう。1、女占い師(1597年、ローマ、カピトリーノ美術館)は26歳の頃の作品。若いジプシーの女占い師が、若者の手相をみる口実で指輪を抜き取るという状況を作品にしているが、女占い師は、以降のカラヴァッジェスキが状況を変えて好んで何度も描いている。2、ナルキッソス(1599年頃、ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館)28歳頃の作。若い狩人(ナルキッソス)が水面に映った自分の姿に抗しがたいほど魅せられ、口づけと抱擁を交すために水面に体を近づける場面。明暗部の描き方も相当深くお奨めの1点。3、バッカス(1597、98年頃、フィレンツェ、ウフィツィ美術館)本作はマランゴーニによって1913年にウフィツィ美術館の収蔵庫から劣悪な保存状態で再発見された作品。ワインを持つバッカスは酔って赤く官美的である。解説書にもこれまで記載ないが、ガラス容器越しの布の折り目にレンズ効果がない。当時はそこまで気がついていなかったのであろうか。(筆者私見)
他、初公開された「法悦のマグダラのマリア」だが、人間の深層心理に訴える深さがある。解説にはなかったが、お腹の膨らみが気になった。妊婦をモデルとして描いたと思われる。カラヴァッジョ赤のマント鮮烈な「洗礼者聖ヨハネ」、また、メドゥーサ(1597、98年頃、個人蔵)も強烈な迫力に溢れていた。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
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