今月の課題 スローシティー 編集主幹 松原 清
今年は空梅雨に終わるかなぁと思っていたが、案の定自然の猛威が日本列島を襲っている。京都議定書に端を発し、パリ協定にまでこぎつけた人類の英知に賞賛を送ったのも束の間、自国優先の暴挙に心を痛める昨今である。経済優先で、自然と共存する大切さを踏みにじる人間の愚かさを今更ながら思う。
この号を編集し記事を書いていて、オルヴィエートという街を調べた時、耳慣れない言葉に接した。ネットで調べると「オルヴィエートの町は大地から隆起した凝灰岩の自然の城壁に囲まれており、『天空の城』ラピュタのモデルとなった特異な風景の他、古代エトルリア時代には隆盛を栄えたという歴史、街並に残る中世の面影、そして何よりもゴシック建築の宝石とも呼ばれるドゥオモの存在が、オルヴィエートをイタリアの町の中でも、最もユニークで興味深い町の一つにし、世界的に有名な町へとしました。現存するエトルリア、古代ローマ遺跡で考古学上の証拠となるものは数多く、オルヴィエートに残る墓は、エトルリア文明の最も重要で有名な遺跡の一つに数えられています。」映像を見ると確かに魅力的な街である。白ワインの産地としても有名だとか。フィレンチェからまた、ローマからも約1時間少しで行くことが出来る。そして、この街が「スローシティー」に認定されているというのだ。「スローシティー」という言葉、みなさんはご存知でしたか? スローシティーは、イタリアで起こったスローフード・スローライフ運動から発展した世界的地域文化顕彰活動。シンボルマークはカタツムリ。加盟条件は、人口が5万人未満で有機農業や食育を実践していること、州の首都でないこと、スローフードの加盟都市であることなどだ。加盟審査には55の指標が設けられている。また、3年毎(5年と書かれたものもある)に実態調査が行われる。1999年イタリアの市長たちが集まり発足。運動の中心となったのは、当時オルヴィエートの首長だったステファノ・チミッキ氏だと知った。今も本部はオルヴィエートにある。
スローシティーの概念をひと言でいえば住民の感性を重視した、ボトムアップ型のまちづくりと言える。現在加盟地域は全世界で190ヶ所近くにおよぶという。本家イタリアは70カ所を越え、日本では唯一東北の気仙沼市が加盟している。韓国は11ヶ所。韓国の全州韓屋村では、観光化による喧噪と俗化の波が押し寄せ、あまりの猥雑さに訪問者も辟易して改善されなければ登録更新も危ぶまれそうだ。世界遺産の実情に似て、無秩序な観光化が進むと当初の崇高なテーゼが空文化してしまうというジレンマもまた併せ持っている。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円