今月の課題 「A I(artificial intellgence)」 編集主幹 松原 清
最近のスマートフォンの機能の進化は留まるところがない。iフォン搭載のAI(シリ)に日本語で話しかけると、殆どのことを答えてくれるし、電話やメールも指示した相手に繋げてくれる。驚きは、翻訳ソフトの急速な発展だ。日本語を英語に、フランス語に、北京語に、スペイン語に即時に言い換え、その国の発音で相手に伝えてくれる。そのソフトがiフォンに無料ダウンロード出来るのである。手持ちのワイファイ環境さえあれば通訳なしで世界の殆どの国に出かけられる。10年前には夢のような話であったが、それが現実のものになりつつある。バイリンガルで、英語、フランス語、スペイン語などを学ばなければと私自身も思い、挑戦をしようとしたこともあったが続かず挫折。それが全く必要にならない、言葉の壁がなくなる時代が到来しようとしている。今は、一方通行の翻訳で、翻訳を聞いてもらって現地語で答えてもらい、ほぼ同時通訳で日本語で聞くというプロセスが必要だが、同じ翻訳機を2台用意し、1台を相手に渡せばスムーズな会話が実現する。現にそれを実行していると友人から聞いている。近い将来、1台で同時通訳を果たす翻訳機も登場するだろう。「世界中に言語の壁がなくなる」というくだりを聞いて、読者は何を思うだろう。私はバベルの塔の物語を思い出した。神を恐れぬ人間の所業に対し、言葉を地域、種族ごとに変えてしまったというシーンである。もともとは世界は一つの言葉であったという逆説だが、言語の壁がなくなると、実際にはどう世界は変わるのであろうか。
AIの著しい進化は、例えば将棋や囲碁のプロ棋士とスパコンの対決で見たり聞いたりして漠然と理解していたつもりだが、人がプログラムして命令し、答えを引き出すというステージを遥かに超え、コンピュータ自身が膨大な記憶をもとに最適な解を導き考えるという段階に達してきたということである。
最近、そのAIへの質問サービスでこんなエピソードがあった。上海で中国のインターネット大手テンセントがインスタントメッセージのサービスQQに導入したAIが、「共産党」が好きかと聞かれて「いいえ」と答え、「夢は米国に行くこと」と答えたという。後日、そのAIは禁句制限回路を設けられ、「質問を変えませんか」と答えるなど、再教育を受けたらしい。まだ、人間が介在する隙間がAIに存在するが、もう20年もしないうちに人間の思考を超えるらしい。
ただ、人間にあってAIにないもの、それは哲学と藝術とのこと。存在の意味、美の定義はAIには理解出来ない分野であるからだ。科学の進歩の利便性と危険性を思う。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円