今月の課題 「新元号制定 狂想曲」 編集主幹 松原 清
新天皇ご即位を1ヶ月後に控えた4月1日、新元号が発表された。予定の11時30分を10分ほど遅れて菅義偉官房長官が掲げた書額には、墨痕鮮やかに楷書の「令和(れいわ)」の文字があった。弊社でも事務所にいるメンバー6名が固唾をのんで見ていたのだが、夫々が初見の感想を語り合った。「ら」行の言い難さ、令が命令にイメージされるなどのマイナス点は概して男の感想、女性には令夫人などの使い方もあって好感がもたれていると様々なアンケート結果が出ている。
出典は「万葉集」の梅の歌32首の序文「初春の令月(れいげつ)にして、氣淑風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す」。以前から次の元号は漢籍よりの撰文でなく、日本古来のものからと言われてきたが、史上はじめて実現の運びとなった。実は筆者も発表の瞬間に、何か違和感を感じたのは事実だが、2日ほど過ぎてイメージに落ち着きが生じてきた。
それにしても、内外のツイートの凄まじさはどうだ。4月1日がエイプリルフールだということだろうか、「永安」に決まっているとか安部総理の「安」をいれた元号のフェイクニュースも乱れ飛んだ。中国からも驚きの声と共に、漢字本来の基本から離れた信じがたい元号との強烈なコメントもあった。
それよりも、菅官房長官が発表の際に語った、「元号の候補」「提案者」は公表しないとの言が、次の日には政府原案として最終の6案がネットに上がっていたのにはズッコケタ。漢籍3(久化、万和、万保)、国書3(英書、広至、令和)から決定されたというのだ。提案者についても実しやかに語られている。文化勲章受章の万葉学者・中西進氏ではないか、と。
また、「令和」の書を書いた書家もネットに上がっている。大東系のM氏、いずれ知られることになろうと思う。野次馬根性も分からぬではないが、日本人はいろいろ神輿を担ぎだす。そしてすぐに忘れる。兎に角、これまでの漢籍からの元号から国書に移管した意義は大きい。新元号のもと日本丸は何処へ向かうのであろうか。
筆者は昭和、平成、そして令和と生きることとなる。平成が決まった折、「大変な時代になるだろう」との予言じみた言葉を高名な書家N氏からお聞きしたが、正に携帯、ネット全盛の時代が到来し、本を熟読する人達が激減した。また、これほど天変地異が立て続けにおこった時代も希有だろう。野外で遊ぶ笑顔の子供達も少なくなった。私たちの子供時代の自然が失われつつある現在、溢れすぎた利便文物が大らかな思考を壊しつつある。
何が真理で何がフェイクか、情報過多のなかで民意が誘導されている。先ず学びの姿勢を正さねばなるまい。特に東アジア情勢のキナ臭さが杞憂に終わることを願いたい。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円