今月の課題 「総選挙の今後と美術界」 編集主幹 松原 清
今年も無事日展が開催された。我々美術に携わる者には極めて重要な問題だったが、コロナ禍にあって、この2年は薄氷を踏む環境に陥ったことも事実である。
そうした本来の仕事に集中して眼を向けたい時期に、自民党の総裁選挙、衆議院解散総選挙と国内の政局は大きく動き、日本の海外政策にとっても重要な期間となったことは否めない。総選挙で、立憲民主と共産党が選挙協力するという前代未聞のことが公然と実施された。改憲禁止、自衛隊廃止、天皇制廃止とする共産党の基本政策方針と立憲民主の方針が噛み合うとは思われないことは火を見るより明らかで、支援母体の労働組合から激しい突き上げをもらい、トヨタ労組にいたっては支援中止が宣言されるなど、もめにもめた。結果は周知のとおり、若干減少したものの自民が261議席で絶対安定多数を占め、立憲96議席、共産10議席は予想を大きく下回り政権奪取どころか、実質の敗北となった。それに対して大きく前進を果たしたのが維新でかつての4倍に迫る41議席。しかし、重要なのは岸田政権の内閣の政策と実行力であろう。コロナ禍で疲弊した日本経済をいかに立て直すか、またキナ臭くなってきた世界秩序の安定にどう対処するのかが問われる。日本の安全を守るための憲法改正は?自衛隊の予算は?人権宣言は?懸案はてんこもりである。舵取りを誤れば、世界の趨勢から日本が取り残されるばかりでなく、侵略、占領という大問題に発展しかねない。国家の存亡問題に蓋をして議員のスキャンダルに時間をつぶすような党はいかがなものか!それこそ優先順位があるだろう。
美術の課題に話を戻そう。最近開催される展覧会の図録に作家の住所が明示されるケースが増えてきた。個人情報保護法の制定以降、殆どの会が住所録を付帯しなくなった。変な電話がかかってくる心配はほぼ無くなった訳だが、展覧会開催の意義も何処かに置いてきてしまった。何故、作家が集まり展覧会を開催するのか、美術運動の盛り上がりをはかるためではなかったか。その中で、自分を切磋琢磨して作品で主張するというのが原点である。作家が観者から遠くなったことは明らかだ。その会に興味あっても近くに住む会員への質問もできない。内々に動くことが会の逼塞に向かうということに気づきはじめた証しかもしれない。個人情報保護法適用は名簿人数が決められていたと記憶する。大団体なら役職を絞って載せればいい。美術界を如何に活性させるか、我々もその責務を負う。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円