第53回日本南画院展より
―写生の域から心象的画域に―

会長 町田 泰宣

 

 日本南画院の理事長として11年間、本部の定着化と会の倉庫(保管庫)の整備、墨主体の作品の奨励化、南画精神の浸透化を推し進め、更に定款に記載あったが、長年停滞していた海外交流展の開催を実現、また公益社団法人の取得をいち早く実現するなどの確たる実績を残し、率先して水墨作品の展開を実施してきた町田泰宣氏。一昨年、その任を退き会長(名誉職)に就任したが、自ら締結した日中交流展の責任者としての立場は継続している。
 昨年、尖閣問題で日中間の政治的対峙があったが、その問題が美術の世界にまで飛び火して、京都市美術館で開催中であった交流展の中国側作品を撤去するとの通告を受けた時、開催中の撤去を断固拒否、中国側責任者との談判で了解をとりつけた剛腕振りも拝見したところである。
 さて、第53回日本南画院展より氏の出品作「神秘の王国」を紹介させて頂く。
 町田氏は昨年にブータンを訪れ、取材を実施しており、ブータンの聖地と言われる標高3100メートルのタクツァン僧院に徒歩で登っている。自身僧籍を持つ町田氏が仏教の聖地を訪れるのは誠に自然に思える。かの3.11の折り、ブータン国王夫妻が被災地を訪れたのは周知のことであるが、京都へも立ち寄られ、国会で見事な平和演説をされた。その返礼の気持ちと崇高な仏教の在りよう、そして厳しく豊かな大自然を体験してみたいとの気持ちが、氏を動かせたように思える。
 実際の僧院はこの絵のごとく断崖絶壁の上にあるが、単山ではなく人を全く寄せつけない険しさではない。が、麓のパロ盆地から900メートルの標高差がある。2時間以上かけて実際に登った苦しい感覚、思いがより険しい山を描かせたと言ってよいだろう。山と山を結ぶように描かれたはしご状のものは、登る途中で見たと思えるルンタと呼ばれる5色の祈祷旗であろうか。当然昼に見た風景であると思うが、月明かりに浮ぶ僧院を作家自身の心象風景として具現せしめた。下部の抜いた白の雲海、それに呼応する月光をうけて輝く山と僧院、手前の影部と遠山の黒、微かに掃いた金色が深遠さを更に深める。
この作品は、そうした意味において、日本南画院の南画精神を改めて思い起こさせる。写生の域から心象的画域に昇華された、正に「神秘の王国」といえる。(松)

 

神秘の王国