第39回桂紅会書展より
会長
崎 華 祥
「思ひやる心や花にゆかざらん霞こめたるみ吉野の山」西行山家集に数ある桜の名歌から撰文した。今年の桂紅会書展に出品された楢崎華祥会長の佳品だ。
古来、日本人の心に宿る桜は山櫻を指してきた。殊に吉野山のそれは、西行をはじめ数々の歌人の心を動かし、名歌、名文を導きだしてきたのである。なぜ山櫻に魅かれるのか。それはこと吉野山にあってはあの豪雪と寒風に晒されながらも耐え抜き、春にやっと花となって結実する真の美しさに心洗われるからだろう。だから「ゆかざらん」なのだ。楢崎さんの今作はそんな歌の背景をも思い起こさせるさまざまな要因を呈してくれている。まずは散らし。前半から山なりの大きな空間を作り、まるで霞のようにそっと置いた下の句へつなぐ。それにともない青墨色の変化も如実だ。紙のグラデーションにも歌意を込めたのだろう。額のマット柄も然りだ。まさに渾然一体となった仮名世界。そしてそこには文学と書の表裏一体の姿がある。
日展会員/臨池会顧問/読売書法会董事 (篠原)
