寿記念 池田桂鳳書作展より
「漢字・かな両様の美を探究」
日本藝術院賞受賞
水穂会副会長・理事長
池田 桂鳳
●6月24日〜30日
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高島屋京都店美術画廊展
恩賜賞・日本藝術院賞受賞者の池田桂鳳が、ご縁の深い高島屋京都店の美術画廊で傘寿記念の書作展を開いた。掲出の『物皆者/ものみなは』は、五十点あまりの出品作の一点である。
池田桂鳳が、名匠日比野五鳳に就いたのは、昭和十六年(一九四一)、六歳のころである。齢からして自分の意志というより一家みなが習ったのである。当時の五鳳師は、いわば漢字系の人であり、かなの名匠としてのスタイルは当然生まれていない。その時代から就いたことで池田桂鳳には、書人五鳳の全体像が、理屈でなく無意識のうちに沁みこんでいったのである。
五十点の作風の幅は、まことに広い。『人はいさ心もしらず(紀貫之)』等の古筆の美意識を感じさせるもの、『夕されば雁がこえゆく(万葉集)』等の近代感覚あふれるかな表現、とおもえば『安穏無事』等の素朴な漢字書など、これぞ、傘寿にふさわしい到達点であろう。それを掲出の一点に絞りこんで語るのには勇気が必要である。かな書の大きな特質の一つは料紙の工芸美でもあるのだから、これを避けては通れない。
『物皆者/ものみなは』は、万葉集巻の第十の雑歌一首を右に原文の漢字で、左に読み下しのかなで書いたもので、池田桂鳳のかなと漢字の両様の美意識が期せずして一点に凝縮された作品である。
原文の書は字間、行間をたっぷりとって、墨彩の濃淡を料紙の色と巧みにあわせている。読み下しは一転して柿色の明るい料紙に散布も鮮やかに展開する。歌の意味するものも「ものみなはあたらしきよしただ人はふりにしよろしかるべし」と実に深遠である。
また、『手を把って共に行く』の書は五鳳翁の『共にさくよろこび』を、そのことばからも筆致からもおもわず連想する。傘寿にして師へのおもいは一際深いにちがいない。
もう一点、『今日までありがとう/これからもよろしく』は、誰に伝える書であろうか。書が〈文字のかたち〉と〈ことばの意味〉を同時に伝える稀有の芸術であることを改めてかみしめるのである。(田宮文平)
