第39回日彫展より

日本芸術院会員

山本 眞輔

「心の旅 ―エーゲの風―」

 

  エーゲ海が一望できる遺跡の一角で佇む乙女、エメラルドブルーの海原から吹く風、それも束ねた髪が横に靡くほどの一瞬の強風が麻のワンピースを押しやり、しなやかな肢体のフォルムを映し出す。乙女はその風に身を預けるかのように目を閉じ、栄光のギリシャの往時の想像に浸っているようである。おそらく、山本氏は旅のエーゲ海で、強い意志を感じる凛とした乙女の表情に魅力を感じたのであろう。その心のスケッチ、メモがこの作品に結実したと思える。「歴史背景を感じさせる土地での何気ない出会いが作品に繋がっていく」、「一番最初のイメージが大切」と語るとおり、そうした光景のイメージデッサンの一枚から氏の作品は構築されていく。フォルムは作家の主張と一体化し、センシティブなニュアンスを観者に投げかける。
 山本眞輔氏が「心の旅」シリーズを手がけ始めたのは、2000年の第32回日展の出品作「心の旅ーヴェネツィアー」からであったと記憶する。前年に内閣総理大臣賞を受賞し、今後どのような展開で自作を発表していくかを熟考されたと思うが、2度にわたるイタリア留学で得た感動を再度現在の感性で問い直してみたい、と思われたのかもしれない。仮面を手にしたカーニバルのマント姿の女性の静謐な佇まいが今更に蘇る。42歳の時、胃の4分の3を摘出する大手術を受け死の渕から生還された山本氏、ここまでよく歩んで来られたという感謝の念を込めて、第35回日展に「生々流転」(平成16年12月、愛知県がんセンターに寄贈)という作品を出品、それが日本芸術院賞の栄に輝く。次年には全てを慈しむ心の具現に「慈光」を発表している。以降、「心の旅」に戻り、精神性の高い高貴な輝きある彫像が評価され、昨年日本芸術院会員に就任された。更なる御活躍を期待したい。
      (松原)