第98回白日会展より
〈白日会の彫刻〉


顧問 中村晋也
副会長 山本眞輔


● 3月23日〜4月4日
● 国立新美術館

 

 ご両氏共に日本藝術院会員であり、日展の重鎮でもある。その両氏の作品を春の白日展と秋の日展で年に2度楽しめる眼福に与っているわけである。
 中村晋也氏は一茶の句「名月をとってくれろと泣く子かな」である。昨年も一茶の「這へ笑へ 這へ笑へ 二つになるぞけさからは〜」をモティフに造形した。
 秋の夜、さっぱり寝つかずに泣き止まぬ幼子を、背に負って外へ出ると名月が雲間から顔をのぞかせた。その月を「とってくれろ」と指さしている、といった情況であろう。
 下手な釈文は却ってジャマになるが、その一瞬を端的に少しも冗長になることなく作品とした。
 わずかに折った膝、ゆるやかな逆S字の体つき、子の声に思わず月を振り仰いだ母(いや、ここは姐やであろう)、そして月を指す可愛い指。玩具も買い与えられない生活ゆえにこそ、得難い宝ものに出会う。情感を豊かに育む滋養を得…また冗舌に陥っていく。ただただ作品に浸り、余さず味わい尽くせばいい。
 山本眞輔は"郷土の偉人"をシリーズ制作。先年発表した、マチュピチュの村長を務めた野内与吉の作品など印象にある。
 今作の「神谷傳兵衛」は山本氏の同郷(愛知県)出身の実業家で、没後100年を記念しての制作。
 肖像制作のむずかしさは、故人で知己でもなければその人生や事跡はもちろん、日常生活やときには逸話などの資料の渉猟の尨大な時間と困難さを伴う。足らざるときには作者のイメージを働かせ、しかも単に相貌の近似のうえに、その人間性をもほうふつさせなければ作品として満足は得られない。
 鋭い眼光、大きな耳、あるいはハの字髭、そして立てた襟や広幅のネクタイや重々しい上衣、等々に、人柄や活躍した時代の風習などが伺われる。それらが生前の人物を伺わせてくる胸像は、業績や社会的地位に裏打ちされた自信に満ち、かつ剛直そうな性格を伺わせる。そうした人物像を真向正面から謹直に制作。横柄さや権力臭は抑制され、その時代のしかるべき立場の人物におのずと備わる恰幅のいい堂々たる紳士ぶりに首肯されよう。肖像であり、かつ人間像に昇華されている。(中)

 

 


郷土の偉人・神谷傳兵衛
副会長 山本眞輔
石膏 78×60×43cm