松尾多英個展

『砂』


● 6月17日〜30日
● 東京芸術劇場ギャラリー2

 

 35歳の時の、砂丘との衝撃的な出合いから『砂』に魅せられ大自然の織りなす世界にどっぷり浸かりながら40余年、これだけの期間ただひたすら砂丘を、また日本画で描き続けた画家は当然いるわけもなく、希有な存在である。時を追ってその描く証しを深めてきた松尾多英さん渾身の100号20枚連作個展である。
 松尾さんは18歳でパリの美術大学で学び、修了後帰国し東京造形大学で教鞭をとりながら「自画像」ばかり約10年間描いていたという。特別に魅かれるテーマが見つからなかった為だが、「今日の精鋭120人展」「〈顔派〉集合展」、「人人展」、「C.A.F展」に出展し、10回の個展開催を果たすなど精力的な活動を続けていたが、恐らく確かな手応え、充実感をたえず求めていたのであろう。冒頭の記載通り1982年、鳥取と静岡で砂丘に描かれる風紋の自然変化美に出合い「自画像」のみの世界から抜け出すことが出来たと回想している。それから約13年間「砂丘・風紋」の自然美を写し取ることに専念し個展も12回重ねたが、その中でしぜんと世界の砂丘・砂漠を見てみたくなりオーストラリア、中国、内モンゴル、アフリカ、ニューメキシコ、ブラジル、エジプトなど砂漠旅行に出かけるようになり、壮大な砂漠を前にして自分自身のちっぽけな存在が砂粒に同化するような新たな衝撃が湧き上がってきたと言う。『一粒、一粒の砂がうごめき、荒々しく、力強く、恐ろしく、優しく、寂しく、静かで美しく、永遠に繰り返しながら変容するこの「砂」の運動と同じように、私も一粒の砂になって生きて行こう』と。「砂」の運動・変容を表現するためには単作品の繰り返しではなく、変容を繋ぐ連作にとの確信にも似た思い、正に自身の生きる道と作品の真のテーマ。48歳であった。
 鳥取砂丘など日本の砂丘を改めて見つめ直した連作の超大作は大きな反響を呼び、多くのメディアに取り上げられ、2005年には砂の美術館「サンドパルとっとり」100号26枚連作が収蔵された。筆者が初めて松尾さんの存在を知ったのもこの頃である。その後も世界の砂丘、砂漠から感じ取ったイメージを新たに加えたり重ねあわせた深い世界を探求、2019年までに14回の連作展を開催。今回4年間の制作期間を経て、最後の総まとめとした20枚連作。
 作家の思いの丈が伝わる壮大なスペクタルだ。岩絵具に混在した砂、膠では定着し難いマチエルだが、アートグレー、アートレジンという定着溶剤を使用。筆はすぐに擦り切れ、莫大な材料費、信念が支えた40余年だ。光と陰、きらり輝く砂の石英。会場いっぱいの連作のうち繋いで16枚、一部欠けたが全容の一端をお届け出来たであろうか。(松)

 

 

 

 

作品の前で

展示画像(20枚の内16枚)