第25回記念 日洋展より
塗師 祥一郎
塗師祥一郎といえば、雪の景である。確か、日展会員に推挙された(1976年)折の作品も雪景色ではなかったろうか。とすれば既に30年余り、40年近くに亘って雪景色を追求し続けていることになる。
塗師は1967年に渡欧した折の体験を「印象派の絵などで見ていた風景が当たり前に目の前に広がっている。憧れ続けた風景はありのままの自然の風景なんだ、と解った途端、日本の風景を描くことが自分の宿命だなと強く感じた」と、かつて本紙のインタビューで語っている。
印象派といえば、そのおこりはノルマンディである。どんよりと曇った空、鈍色の海や砂浜、クールベやモネがその北欧の灰色の景色から色彩を発見し、次第に光彩あふれる謂ゆる印象派絵画に発展していったことは周知の通りだ。
塗師もまたグレーの中に色彩を発見してきた一人ではなかろうか。おそらく絵の具としてのグレー色は使ってはいないのではないか。下に塗る色、合わせる色、重ねる色などによって、白い色に微妙な色彩を感じさせ、塗師の雪についてよく言われるところの〈温もりある〉雪が生まれてくるのだろう。
それだけではなく、その基底には郷土愛やそこに生きる人々への共鳴がある。だから人々が描かれていなくても、轍ひとつや木々のかげり、静もる家々に人々の息遣いが感じられるということだ。
掲出の作品にも人影はない。静かな景であるが少しも寂しいことはない。不思議なことに雪景色なのに暖かささえ感じる。それは画面に生活する人々の呼気があり、その人々に寄せる画家の思いが脈打っているからだ。
「春近い長坂」の構成の工夫も見逃せない。前景は斑になりかけた雪の田畑を大きくとり、ゆるやかな登道で目線を導き、まだ黒々とした木々に囲まれて家々が肩寄せ合い、密度あるポイントとし、やがてなだらかな丘陵を越えて空へと視線は運ばれてゆく。その場に立ち風を感じ空気との会話から生まれた長閑で豊かな里山の景。(中野)
