2013 日洋会選抜展より

日本芸術院会員
日洋会理事長

塗師 祥一郎

 

 静まる冬枯れの景に、滋味豊かな温もりを抱懐している、それが雪景色の名手といわれる塗師祥一郎の持ち味であろう。それは雪国という風土とそこに暮らす人々への愛と共感が深いからに違いない。
 塗師は1932年、北国の石川県に生まれ、金沢美術工芸大学に学び、小絲源太郎に師事。51年に早くも日展に初入選。以来画業に精進して現在、日本芸術院会員、日展常務理事。日本画壇の重鎮である。
 掲出作「冬の海辺」は日本海を望見する雪景色である。画家は雪の農道に立ってスケッチしている。
 右手からゆるやかに畑田がスロープをつくり平坦な稲田に連なる広がりをつくる。右手前に湾曲する農道が一つのアクセントをつくっている。この辺りは常緑樹が多く、松の緑や植込みが枯木や枯草の色を失った景観の中で目に優しい。その先には聚落があり、畔にも農道にも家々の屋根には雪が残り、今しも流れる雪の切れ間からこぼれる陽光を照り返している。海の先には島影が望まれ、全体に春の近さを予兆させる穏やかな温もりを湛えている。
 静かで穏やかな雪景色だが、画面の構成には工夫があり、けっして単純でも平凡でもなく、画面に動きを与え、活気さえ感じさせる。
 前景の斜角や矩形、そして湾曲する複雑な構成を、力強く簡潔にまとめ、水平線をはじめとする遠景に穏やかな落ち着きを演出している。そして優しい陽射しが深い陰影をつくり、立体感をつくる。つぶさに見れば雪の表情も畑田や畔、農道、あるいは屋根のそれぞれに細やかなニュアンスが与えられ、決して平板に陥ることがない。
 長い歳月の取材の積み重ねと体験、そして何よりも北国生まれというDNAが、雪景色の本質を確としてとらえさせ、対象(風景)の本質を抽き出すための抽象作業の過不足ない適切さが、常に新鮮で瑞々しさを招くのだ。この作品に限らず、風景の中に人々は登場しない。にも拘わらず生活感が漂うのは、画家の心に常にその土地に暮らす人々への愛と共感が底流しているからなのだ。(中野)

 

冬の海辺       F50