第104回光風会展より
−「祈」をテーマとして−


日本藝術院会員
光風会副理事長

藤森 兼明

 

 “中世ヨーロッパの時_書の世界を人物と組合せ新しい祈りの形を表現”とは、掲出作品に寄せた画家自身のコメント。
 “質感を際立たせたマチエールに、中世キリスト教美術のエッセンスを取り込んだ背景の荘厳さ、そしてそこに登場する女性がまとう気高く澄明な雰囲気”とは、大方の観者の定着した評と言えるであろう。
 大きな括りでいえば人物画ではあるのだが、それでは収まりきれないスケールの大きさと深みがある。
 掲出作も中世ヨーロッパの時_書の朱赤と金を背景に、ほぼ金に近いショールを黒いワンピースの上に羽おった女性が登場する、いつもの舞台設定だが、見馴れても見飽きることなく、常に瑞々しく新鮮なのは、いくつもの工夫もあるのだろうが、描き手(敬虔なクリスチャンと聞く)のその都度ごとのモチベーションと精神性の深まりこそにあるのだろう。
 背景に登場する聖堂や教会の内部を荘厳しているモザイクや壁画であれ、今作の時_書などはいずれも多くはビザンチン美術の範疇に入るものだ。ビザンチン美術とは東ローマ帝国(4世紀末から15世紀まで)が10世紀余にわたって創出し発展させ、燦然たる文明を創り上げた、豪奢で華美で荘厳たる世界なのである。また首都(今のイスタンブール)はギリシア正教の大本山として宗教上の指導的立場にあった。
 そうした歴史を閲してのモチーフとして時_書にも悠久の刻が流れ、そして今、という時代の中に再登場して現代の女性(画家自身とも)と対峙する。そこにただよう陰翳を越えて、信仰と美を蔵した遺産へのオマージュと共に、世が平和であって欲しいと祈らずにはいられない、そんな思いのこもった作品なのだ。
 なお、藤森兼明展が6月20日から25日まで、日本橋三越本店本館6階で開かれる。日展・光風会展の大作からバラやイタリア風景などが並ぶ。  (中)

 

 

 

マリー・ド・メディシス マニスクリプトへのオマージュ  F130