自然への畏敬の念


日本藝術院会員
光風会理事長

寺坂公雄


●10月22日〜28日
● 日本橋三越本店本館6F 美術特選画廊

 


 日本藝術院会員・日展顧問・光風会理事長の寺坂公雄氏の個展。三越本店では一昨年に続く3回目の開催となるが、通常であれば個展出品作品についてあれこれと考えを及ぼすところであろう。
 周知のごとく、昨年の日展開催に合わせて掲載された朝日新聞の記事で日展は大混乱をきたした。寺坂氏は2009年の日展問題で、当時は全く関与する機会さえもなかった審査中枢の件であったにもかかわらず、発覚時の理事長という重席がゆえの責任をとり辞任された。まだ理事長就任1年目のことである。その無念たるや相当なことと思えるが、さばさばとして信念を貫いた後の笑顔が会場にあった。出品構想を十全に出来なかったこの1年間であったと推測できるが、最近の日展作と光風会出品作各2点の大作を中心に、八ヶ岳南麓のアトリエで描いた大自然の風景や草花、静物ほか約50点が並んだ。草花を描いたものでは、アトリエの山窓横で描かれた「山窓の花々」と「山窓のティータイム」が新鮮な臨場感があって氏の持ち味を特出していたように思われる。また、小品の「ボトルのある静物」「青いポットのある静物」などには、1960年代の「黄色のテーブル」「室内」「パブミラーのある棚」などの時代を通したエキスが香っていた。
 紹介作は、第44回日展出品の「からまつ芽立ち」120号である。新緑に映える澄み切った空気の新鮮さが観者に伝わってくる。油絵具の発色が素晴らしいからで、寺坂氏の風景作品の根幹を支えている技術である。樹々のそれぞれの距離感、光と陰の調和、遠景の処理、それらが一体となって「自然への畏敬の念」を描出しているのである。
 寺坂氏は昭和8年広島に生まれたが、松山が故郷。地元愛媛大学美術科を卒業。昭和29年より光風会・日展に出品している。平面構成の試行錯誤を経て、評価を得た2000年代の一連のギリシャ・アクロポリスシリーズは、自由なイマジネーションによるオムニバス構成であった。今、自然との対話の中での制作に新たな意欲を燃やす真摯な姿勢に改めてエールを送りたい。 (松)