第105回記念 光風会展より


日本藝術院会員 光風会理事長
寺坂公雄


 今ではすっかり看板とも代名詞ともなった八ヶ岳山麓をめぐる作品群だが、初めて登場したのは日本藝術院会員就任記念展(日本橋三越本店、2007年)であった。
 一連のギリシャ・アクロポリスシリーズを中心に、「17才の自画像」(1950年)に始まる代表作のアンソロジーと、郷里(松山)の瀬戸内風景や花などの小品にまじえた大作の「八ヶ岳山麓萌える」と「樹間秋色」に多くの観者は刮目させられた。
 ギリシャの遺跡や彫刻、それらをとりまく風景をモティフにオムニバス構成によって雄大な悠久なロマンを奏で、リアリティとファンタジーを生み出していた。それが一転、身近に展開する日本の自然というモティフと、一見平易とも見える写実風景に、驚きと新鮮さを覚えたのだ。
 以降、八ヶ岳山麓をめぐる四季の自然美への新たな挑戦が続いている。
 既に良く知られているように、八ヶ岳山麓にアトリエを構えて40余年、衆目を集めた初見参の時でも30年余も大自然の中に身を置いて、四季を巡り眺め続け、五体を感応させてきていたのだ。
 先に、一見平易と書いたが、それほどに咀嚼を重ね、自分の手に十分に入れている故に可能なことで、写実のもつ奥行きや味合いはとうてい獲得出来るものではない。
 『冬立つ山麓』は題意のとうり、自然は秋から冬の入口にある。いつも歩を進める杣道も周辺も落葉に敷き詰められ、木々は散り残った黄葉赤葉をつけている。手前に黒々とした大樹や白い樺の木の足もとに、まだ丈の低い若木の緑の葉が心地良いアクセントをなす。微光にその姿を明らかにする林の奥は霧にかすみ、全体にゆるやかなパースぺクティブをつくっている。がそのことよりもこの景の孕む、静寂の佇いのもつ豊かな奥深さこそが要鼎であり、作家の心象であろう。ひんやりとした清涼な大気に身も心も染め上げられてくるようだ。(中野)

 

 

冬立つ山麓  F120